ハーメルン
ロクでなし魔術講師と月香の狩人
第3夜 再会の時

 ――智慧ある者は、さらなる智慧を欲するものである。

 例えそれが遥か彼方。この手の届かぬ『ソラ』の領域にあるものだとしても。
 ()()はソレを求めずにはいられない。
 ああ、故に。故に人よ、智慧に狂いし人間(ケモノ)どもよ。
 求めよ。さすれば天は君たちに、さらなる智慧を与え、新しい思索を可とさせるだろう。
 求めよ。遥か彼方の智慧を獲得せし、静かに狂う『血塗れの狩人』を。

 では、君たちに倣い――()の智慧に栄光あれ。







 ――『ダメ講師、グレン覚醒』

 あの夕暮れの刻にて語り合った日の翌日。
 それまでいい加減過ぎる授業を行って来たグレンは、突如その姿勢を一変させた。
 とはいえ、彼自身の性格や人間性が変わったわけではなく、単に真面目に教え始めただけだ。

 そう、ただそれだけ。
 よく噛み砕き、真に正しい意味を理解し、それを確かなる考えのもとに生徒たちへと教授する――そんな授業をだ。
 おかげで彼の評判は格段に上昇。現在では、彼が授業を行う教室に空席はなく、立ち見の生徒さえ現れる状態だった。
 
 ――さて、それからさらに数日が経過し。
 そんな絶賛評判向上中のグレンとは別に。ギルバートは1人、学院長室に居た。
 非正規、それも魔術師ですらない一般人の町医者が学院長室に招かれるなど通常ならばある筈もなく、もし呼ばれることがあるとすれば、大体は悪い報せを告げられる時だろう。
 だが幸いにも、今回の呼び出しはそういう類――主に解雇(クビ)というわけではなく、ただの頼み事だった。


「連休中の医務室の担当、ですか?」

「うむ。帝都で行われる魔術学会に出席するべく、ここの講師・教授たちは今夜帝都に転移する。
 よって明日から5日間、学院は休校とすることについては、君も既に知っているね?」


 初めて会った時と変わらない好々爺然としたリック学院長の言葉に、ギルバートは軽く頷くことで肯定する。
 そう。明日から学院は5日間、休校だ。
 学院の教授や講師連中が帝都で催される学会に出席するため、生徒たちへの授業は行われない。
 だが唯一、例外が存在している。
 とある事情で退職した講師に代わり、非常勤講師グレン=レーダスが担当することになった2年2組。
 彼らのクラスだけ授業に遅れが生じ、彼らだけ休日中授業を行うことになっている。


「学院はほとんど空になるとはいえ、一応生徒たちとグレン君がいる。
 万が一のことがあっては困るのでな。すまないが、その間のみ君に医務室を任せたいのだが……どうかね?」

「いや、別に俺……私は構いませんが。
 はたして本当に必要でしょうかね?」

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