第3夜 再会の時
「言ったじゃろう、万が一のことがあっては困るとな。
だが、受け持つ教室がないとはいえ、医務室の法医師も我が学院の講師だ。当然、彼女も帝都の学会に出席する。
だからその間、医務室を任せられるのはギルバート君。君しか居らんのだよ」
納得するには何か足りない気がするのだが、元々リックという男はこんな感じだ。
歴史あるアルザーノ魔術学院の長を務めているというのに、いや……あるいはそうであるからこそ、他者をより強く思うのだろう。
それがいつか、帝国の未来を担うであろう生徒たちであれば尚更に。
「……分かりました。その仕事、引き受けましょう」
「おお、やってくれるか」
「その代わり、給金は少し足してください。
本業をそう何度も休んでいては、街の皆さんからの評判も落ちてしまう。ならせめて、それぐらいはして頂いても良いでしょう」
「むぅ……そうじゃのぅ」
ほんの数秒ほど、困ったように唸りを上げていたリック学院長だったが、自分からの頼みでもある故、彼の要求を呑み込むこととした。
周囲の住民たちから良い印象を抱かれ、評判が良くなれば『もしもの時』が来ても疑われる可能性は大幅に下がる。
逆に住人たちからの評判が悪くなって、何かを切っ掛けに怪しまれでもしたら後が面倒だ。
頂いた給金は取り敢えず、菓子か何かを買うために使って、馴染みの者たちに配ればいい。
周囲の反応を気にし、対処法を考えるのは人間であるが故と、こういう時にはよく思うものだ。
「それで、用件はそれだけですか?
私としては、まだ用があるのではと思っていたのですがね」
「……」
普段と何も変わらない口調で尋ねるギルバート。
変わらない声での問いだからこそか、学院長は彼が、ここに自分を呼んだ別の理由。ソレに気付いていることを理解した。
それもそうだ。こんなことを知らせるためだけに、学院長室に呼び出される筈もない。
例え自分が同じ立場であったとしても、とリックは思い、彼を呼んだ本当の理由たる話をその口より語り始めた。
「……君も知っているだろう。『血塗れの殺人鬼』のことを」
「ええ。もうかれこれ4年ほどになりますかね、例の殺人鬼の名前が世に広まってから」
「一般的に知られている最初の犯行場所は、帝都オルランド。
精鋭を揃えた帝国宮廷魔導士団の手から逃れ、後に場所をこのフェジテに移し、今もなお夜毎に魔術師たちを惨殺しているとの噂だ」
「そのようですね……それで? それと何の繋がりがあって、私をここへ招かれたのですか?
まさか……学院長殿は、しがない町医者に過ぎない私を疑っているとでも?」
若干目付きに鋭さが帯び、気付かれない程度でに睨みつけると学院長は両手を横に振り、「違う」と否定した。
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