第6夜 変わる物、変わらぬ者
『アルザーノ帝国魔術学院自爆テロ未遂事件』
1人の非常勤講師の活躍により、最悪の結末を回避するに至ったこの事件は、関わった組織や諸々の事情もあり、表向きにはグレン1人が解決したものとして、その上で社会的不安を生じさせぬよう内密に処理された。
だが、物事はそう上手くいかないのが世の常と言うべきか。
事件収束から1日も経たぬうちに、帝国宮廷魔導士団の情報統制を無に帰すが如く、ソレは消し去られた闇の内より現出した。
アルザーノ帝国魔術学院、その学院下に築かれたフェジテの街。
その街のとある空き家に目を付けたのか、ソレらは惨たらしい様を晒して、フェジテの住民たちの視線を集めた。
学院を襲撃したテロリスト。
ジン=ガニスと、レイク=フォーエンハイム――その2人の生首。
この世ならざる恐ろしい何かを見てきたかのような、恐怖に染まり切った顔のまま絶命したらしい2人の生首は、想像以上にフェジテ、ひいては帝国政府そのものを震撼させた。
犯人は『血塗れの殺人鬼』。
表の世界にその名が広まったのが4年前。裏の世界、闇社会に生きる者ならば、もはや知らぬ者のいない連続殺人鬼。
魔術を使えぬ身でありながら、夜な夜な外道魔術師を狩り殺す彼の名は魔術師たちに大いに恐れられ、同時に魔術を扱えぬ一部の一般人からは英雄視さえされる程に賞賛されていた。
だが今回の一件は、それまでに彼が得て来た民衆からの好意を、全て己に対する恐怖へと変えてしまう程に凄惨たるものだった。
『求める者よ――かねて“知”を恐れたまえ』
空き家の壁にこれでもかと大量に使われた血によって書かれた、誰かへの警告。
使われた血はまず間違いなく、ジンやレイクのものなのだろう。それ故に、その警句に対する民衆たちの恐怖は倍増する形となった。
道を踏み外し、己以外を実験材料としてしか見ていない外道魔術師たちを狩る殺人鬼。
例え帝国や魔術師たちが彼を悪人と称し、罵ろうとも、自分たちだけは彼を信じている――そう思っていたのだろう。
だが、彼の為すべき行いは民衆たちの想像を遥かに上回るモノだった。
一般人だろうと魔術師だろうと関係ない。人の道を外れ、真に悪へと堕ちた者をこそ誅する処刑人。
その行いはどこまでも純粋で、だからこそ常人には理解し難く、この生首事件を機に彼を応援していた者の数は減少していくこととなった。
その様を見る者が見れば、きっとこう思うだろう。
かつてのヤーナム――未だ狩人が英雄で在り得た頃から、侮蔑の存在へと成り果てて行く過程。その再現のようだ、と。
*
「――よろしかったのですか?」
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