ハーメルン
ロクでなし魔術講師と月香の狩人
第8夜 狩人と魔導士 

 血と硝煙に満ちた裏路。
 響く銃声、轟く拳撃、魔術の展開音。
 地方都市ではまず起こり得る筈のない、超人たちの戦い。
 それが今、この夜の地方都市を舞台に行われていた。


「ぬうぅんッ!」


 豪炎を纏う剛拳が、猛々しい一声と共に振り下ろされる。
 魔力を乗せ、接触と同時にそれを爆発させるという異色の近接格闘術『魔闘術』(ブラック・アーツ)
 かつてはその武術を用いて、破壊魔人の異名で恐れられ、遂には英雄と賞賛されるにまで至ったバーナードのそれは、全盛期のものと比べれば確かに威力は劣っている。

 が、それでも並大抵の外道魔術師ならば容易く葬るだけの威力はあり、おそらく直撃すればギルバートもただではすまない。


「……」


 迫る剛拳に対し、ギルバートが取った行動は防御ではなく回避。
 それもそうだ。元々狩人の戦いに防御という概念はない。
 いや、皆無というわけではなかったが、強大な獣の前に並大抵の盾や鎧などは意味を成さない。

 それは最初期から現在に至るまで変わることはなく、多くの狩人は獣の攻撃の際には防御ではなく、回避を多用する。


「ふん……」


 回避の直後、すかさず引き金を引いて銃口から弾丸を放つ。
 硬い獣皮さえも貫く水銀の弾丸、その存在を彼らは既に知っていた。
 故にバーナードも纏う礼服で受けるのではなく、転がるように回避して弾丸を避けた。


「っ、アッブナイのぉ!」

「……老齢の割によく避ける」

「フフン、侮るでないわ。
 老いたとはいえこのバーナード、まだまだ若いモン……いや、お前さんが若いかどうか分からんが、まだ負けは――って、おおぅッ!?」


 得意げに話すバーナードだったが、その語りは振り下ろされたノコギリ鉈の一撃で止められた。
 石畳に深い斬撃を刻むほどの一撃。
 一体どれほどの腕力を有していることか……それは百戦錬磨の古強者(バーナード)であっても、想像するに恐ろしいことだった。


「……っ、こりゃぁ! 口上を中途半端に断ちおって、お前さんには年長者に対する敬いの念はないのか!?」

「歳が何であろうと、敵であることに変わりは――ない」


 変形。そして縦横斬閃。
 鋸から長鉈へと再びの変形を遂げた『ノコギリ鉈』を振るい、斬閃を放つ。
 剣の如き鋭い一閃とは異なる、重量に依る鉈の一撃は重く、それ故に強力だ。

 その威力は先程石畳に刻まれた傷を見れば理解するには容易く、魔術的強化を施した両腕で以てしても、完全にその威力は殺し切れないだろう。
 下手をすれば、そのまま腕を持って行かれてもおかしくない程に。


(おまけにこやつ、ただの脳筋バカ(ちからまかせ)ではない……)


 リーチが延長化し、長鉈(ながもの)となったノコギリ鉈を扱うのは容易ではない筈だ。

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