第16話 『収容所』
グラズニィグラード 収容所
ここで警備に当たっているジョニーという兵士は監獄に居るアメリカ人を見て、久しく会えていない家族の事を思い出していた。
妻と出会えた事は自分の人生の中で一番の幸運だと言い切れる。
正直言って自分みたいな男が彼女と結婚できるとは信じられなかった。
食い意地は張っているし、抜けているところはあるし、胃腸が弱くてよく下痢になるし…。
ようやく子供も生まれて家族の幸せを謳歌しようとした矢先の冷戦…。
胸ポケットにしまってある家族の写真を眺めるとため息が漏れる。
なんでこうなってしまったのだろうかと…。
妻と付き合っていた頃は自由に行き来できたのに何故こうもいがみ合ってしまったのか。
大きなため息を吐き出しながら時刻を確認するとそろそろ彼に食事を出さねばならない時刻が迫っていた。
椅子より腰を上げて、食糧を置いてある小さな保管庫より適当な物を取り出す。
「今度はギンガメアジか。これ、あんまり美味しくないんだよなぁ」
自分が食べる訳ではないが前に食べた感想が漏れてしまう。
とは言っても食糧不足が深刻な問題になりつつあるココでは貴重な食糧だ。
何故燃料や弾薬、武器に車両にお金をかけて食糧が足りなくなっているのだろうか?
噂ではGRUの兵士に食糧調達任務を出したってのもあるぐらいだ。
「上の連中は良いよなぁ。美味しいもんばっかり食ってるんだろうな…はぁ~」
想像するだけでため息が漏れる。
前までは不味いと思っていたレーションが今では高級料理に見える。
ガチャン…。
扉が開いた音が聞こえて振り返ると扉が開いていた。
ジョニーがいるのは収容所内の兵士が詰める部屋で、周りはガラス越しに見えるようになっている。
鍵をかけていた訳ではないので開けようと思えば誰でも開けれる扉。しかし収容所には自分以外の兵士は配属されておらず、居るのは自分と収容されている男のみ。
まさかと慌ててテーブルに両手をついてガラスに顔をくっつけるように牢屋を覗き込むが、収容された男はベッドに横たわっていた。
首を傾げて開いた扉に近付いて、通路を見渡し閉めた。
収容所はそこまで重要に思われてないのか牢の電子ロック式の鍵以外は簡素で、作りが甘いところがある。
「ノブが緩んでたのか?あとで修理でもしておくか…」
「………動くな」
「―――ッひぅ!?」
背中に何かが突き当てられている。
感触から銃口だと分かると冷や汗がどっとあふれ出る。
背後を取られ銃口を向けられていいる状況に恐怖を感じながらも疑問が頭に残る。
背後に居る人物はどうやってここまで入り込み、背後に回り込んだのだろうか。
「ここにスネークと言う人物が収容されてますね」
「あ、あぁ…はい。お、居ります」
「鍵はお持ちですか?あるのなら渡して欲しいのですが」
「鍵は無いです」
「無い?」
「違ッ――鍵ではなくてですね電子ロックで…」
「あー、何と無しに理解しました。とりあえずロックの解除は出来ますか?」
「それは出来ます」
「――そう」
威圧するように言い放っていた相手の言葉が最後の一言だけとても柔らかく感じた。
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