第05話 『二人の移動風景』
バットは真剣な眼差しでAK-47を構えて対象を狙う。
乱れている息をゆっくりと落ち着かせながらトリガーを引く。
弾丸は消音目的で銃口に結ばれた前回の戦闘で穴だらけになったユニフォームに、新たな穴を開けて目標へと向かって行く。多少威力は落ちたといえども対象の脳天を貫くには十分な速度と威力を誇っており、貫かれた対象は気付く事無くその場で息絶えた。
AK-47をその場に置いて辺りに最大の警戒を払いつつ対象に近付く。息をしていないのを確認して重い身体を引っ張って森の茂みへと運ぶ。運ぶ途中も警戒は怠らず、周囲に気を巡らす。短い距離だというのにバットは汗を流して息を乱していた。
やっとの事で茂みまで運ぶとナイフを取り出し、それを運んできた対象の肌に押し当てる。後は力を込めて肉体を切り裂いてゆく。
先ほどまで生きていた証しである僅かな体温と溢れ出る血を手で感じながらも手を休める事無く解体して行く。切り取った血肉に尖らした枝の先を突き刺し、持ち手の方を地面に差し込んだ。同じ作業を円を描くように六回ほど繰り返し、中央に火をつけて血肉を炙りだす。
滴り落ちていた血に肉に含まれている油が混ざり始め、真っ赤だった肉が茶色く変化し焦げ目が付き出した。その色具合を見て一つをナイフで切って内部の焼き具合を確認すると大きく頷き口を開いた。
「スネークさん。ワニ焼けましたよ」
「……ん。分かった今行く」
茂みの向こうから声が返ってきた。
初めてワニという生物を見たが正直怖くてたまらなかった。鳥や蛇だったらほかのゲームで見たことあるがワニは初めてだった。
一回目ではソコロフが監禁され、二回目では山猫部隊に襲われたラスヴィエットからチョルニ・プルトに移動したスネークとバットは眼前に広がる沼地に頭を痛めた。沼地なのは問題ではない。そこに住まう住人――いや、人ではないが、住み着いている生物が大問題だった。
スネーク曰くかぶりつかれたら大怪我は当たり前、水中で襲われれば逃げる術はないとまで忠告された。
冷や汗を流しながら焦っていたバットにスネークは上官に無線をするからその間に食事の用意を頼まれたのだ。狩っていた食料は置いて来てしまったので目の前のワニを狩る事に…。数を減らし、腹も満たせるので一石二鳥と思ってやったのだが撃つ最中も運ぶ最中もいつ襲われるかと思うと気が気ではなかった。
ひとつを手にとって噛り付くと結構弾力があるが歯応えがたまらない。脂もけっこう乗っており味も良い。前に食べたチキン味の栄養食に似ている。似ているがあんな粘土みたいな栄養食と違って脂や肉の歯応えが良い。気がついたら一本食べ終えており次のに手を出した。
初めてのワニ肉に舌鼓を打っていると無線を終えたスネークが近付き、腰を降ろして焼いていた一つを手にとってかじりついた。
「美味いな。前にもワニ肉を食べたがその時よりも美味い。前にもワニを料理したことがあるのか?」
「いえいえ、見たのも初めてですよ」
「なら料理の才能があるのか。なんにしても戦場で美味しいものを口に出来るのは良い」
「ええ、お腹だけでなく心も満たされますね」
微笑みあいながら次々にワニ肉を平らげていく。
スネークが美味しく感じたのは気のせいでもなんでもなく、バットのスキルである野戦料理人Dの効果であった。微量ながら疲労を回復した二人は食べ終えて不要になった火を消して沼地の辺に立った。
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