テイキング・ホリデイ
「さぁて、デートの時間だよ!」
「それで何買うんだよ今日は」
「あれ、スルー? つまりデートって認めてくれてるの?」
「買い物に来たんだろうが。デートなんぞ浮ついた単語を使うな」
「なにその古風な感性……」
日曜日だ。先日学校で半強制的に約束された佐奈との買い物に拓斗は来ていた。新宿だ。数年前は戦場になっていたが既に復興は完了し、かつてと同じような賑わいを取り戻している。家族連れやカップルたちが多い。自分たちもそう見られているのかなとか思いつつ、拓斗は足を進めていた。
「んー最初はどこ行こうかなぁ。服か、あと水着とかもいるかな。昼ごはんも食べなきゃだし、夕ごはんはどうしよっかな」
「戯け、夕方には帰るぞ」
「えー」
自分たちは中学生なのだ。基本的に夕飯時刻にまでは帰った方がいいだろう。自分でも些か固いとは思いつつ、相手は放浪癖のある佐奈だ。先週帰って来たばかりなのに、夜の闇でまた姿を消されても困る。
「じゃあ適当に服と水着かなぁ。タクト、ちゃんと君が選んでね?」
「はいはい」
「お代はタクトで」
「……物によるぞ」
ただでさえ最近はオーガモンのせいで出費激しい。彼と遭遇してから一週間近くたったわけだが、これまでと変わらずあの森の中に滞在したままだ。本人曰く、普通に動く程度ならばなんとか可能になったらしいが、激しい動きは無理らしい。拓斗も甲斐甲斐しく食料を届けた成果だろう。そのせいで今の拓斗はかなりの金欠だ。一応へそくり――つまりはお年玉の残り――持ってきたが足りるか心配だ。
拓斗は知っている。
女というのは買い物に恐ろしく情熱を掛けるものだと。
元ヤンの母親は言うまでもなく、モデルの叔母、目の前の佐奈もそれは変わらない。従姉は覗く。幼い頃からつき合わされて疲労を極めた回数は少なくない。ちなみに拓斗流の対処術はなるべく逆らわずに時間が過ぎるのを待つことであった。
「ようし、まずは服だね」
「はいはい」
こちらの手を取って率先して進むが、普段佐奈は何時も同じような恰好をしている。ホットパンツとタンクトップにフード付きパーカー。フードにファーが付いたり、色が変わったりするが基本的に一緒だ。靴はその日の気分で変わるが今日は編み上げのブーツ。
ボーイッシュな佐奈らしいといえばらしいのだけど。
「たまにはタクトの服も買わないとねぇ、いっつも同じ恰好してるしさ」
「……」
お前に言われたくないと思いつつ、その通りだったので返す言葉がない。
凱などは色々バリエーション豊富でアクセサリー持ちではあるが、拓斗はかなり無頓着だ。叔母たちが選んでくれたものを着るのが多いので、野暮ったいというわけではないが。アクセサリー類も持っていない。地味系男子である。というか目つきが悪いのでそういうを付ける一発で不良と視られるのだ。我ながら洒落っ気など欠片もないがそれが自分というキャラなのでいいだろう。
なので、
「俺は別にいい」
「えー、せめてなんかアクセでも買おうよ。うんうん、そうしよう。時間は限られてるんだから、指輪か腕輪か、ネックレスかなぁ。なるべく目立つやつがいいよね、解りやすいやつ」
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