ハーメルン
Attack on Titamon
ザ・シンボル


「……っ全く、何故俺がこんなことを……っ」

 汗を流し、息を切らせながらも拓斗は蒸し暑い路地裏を走り抜けていく。もうほぼ日は落ちているとはいえ夏の暑さは変わらない。寧ろ湿度が高いせいで汗が滲んで不愉快極まりない。
 佐奈との買い物中に見かけた緑色の影。あれはどう考えてもオーガモンだった。あの見た目だけでも子供が泣く外見に加え、デジモンだ。場合によっては大事件になりかねない。だからこそ佐奈を振り払って、彼を追いかけているのだが、

「見つから、ないッ……」

 もう既に三十分近く走っているにも関わらず一向にオーガモンは見つからなかった。実際、一瞬見かけた緑の背中の方向へと走っているのだから、全然見当違いの方へと向かっている可能性がないわけでもないのだ。呼吸が乱れるのは止まらず、脚もまた止められない。運動が苦手というわけでもないが、得意でもないのだ。昔サッカーに興味があってやろうとしたが友達がいなくて速攻で止め、今では観戦するくらい。その他のスポーツもやっていないのだからあまり長時間の運動は中々の負担だった。

「っ、はっ、ふっ……」

 勿論それで足を止めることはできないが。
 そして、それからどのくらい経ったのか。恐らく、愚痴を零してからそれほど経っていなかったはずだが、いつの間にか日は落ち切っていた。場所も随分と変な所に来たようで、見覚えのなく、人気の薄い廃工場らしき場所だ。やたら荒廃しているように見えるのはかつてのデ・リーパー事件の被害が直されるままに残っているのだろう。あまり珍しくない場所だが、

「……霧?」

 視界の全面を覆う白い靄。霧だよな、と拓斗は思う。彼がこれまで見てきた霧としては異常なまでに濃いが霧には変わりないだろう。
  
「まさか、この中ってことはないだろうな」
 
 正直こんな怪しさ満点の場所に突っ込むのは御免蒙る。御免蒙るが、しかし、

「あいつも怪しさ満点だからなぁ……仕方なし、か」

 どちらにしろ足を止めている暇はない。早急にオーガモンを見つけなければ面倒なことになる。
 そう思い、足を一歩踏み出し、

「待ちなよ」

 背後から声が掛かった。









 振り返った先にいたのは幾らか年上であろう少年だった。多分、高校生くらいだろう。顔つきや表情は暗くて見えないし、体系に関しても全身を覆うような大きなローブのようなもののせいで判断つかなかった。コスプレか何かだろうか。秋葉ではよく見かけるよいうか、見かけない日はないのだが、こんな人気のない場所では流石に驚く。何のコスプレか解らない。
 そして、拓斗の目を引いたのは。
 暗闇の中で微かな月の光を反射する首に掛けられたゴーグルだった。

「そこから先に進むのはお勧めしないよ」

「……誰だ」
 
 不躾な言葉に思わず口調が荒くなる。年功序列を意外に重用する拓斗だがいきなり変なことを言う相手に対しては必要ない。
 しかし、少年は拓斗の問いかけには答えず、

「そこから先に進むのは、よく解らないメールに自覚抜きにYesって答えること……それよりもよっぽど性質が悪い。君もこの先に何が待っているのか勘付いてるだろう? それは間違っていない、だからこそ、君は進まない方がいい。だから、ホラ、家に帰って御飯でも……」

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