相対②
戦力の穴を埋めるべく森に踏み入った”黒”のアーチャーは、静かに歩む修道服の男を監視していた。
『神父――ですか?』
『ええ』
マスターに念話を送り、ケイローンは監視を続ける。
褐色の肌、褪せた白髪、すぐ傍で酸鼻極まる殺し合いが行われているとは思えないほどの、悠然とした足取り。
『監督役がわざわざ出向いてきた、と……? 貴方はどう思います、アーチャー?』
フィオレが困惑を滲ませた口調で訊ねた。
『さて、どうでしょうか……』
少なくとも、彼が監督役の神父――シロウ・コトミネであることは、まず間違いない。ただ、これまでに得られた情報から考えるに、監督役は”赤”の陣営に加わっている可能性が高い、とケイローンは推測していた。周辺の竜牙兵が一向に襲いかかる素振りを見せないことから、どうやらそれも正しいらしい。
だが、監督役が敵方であることなど、些細な問題である。そんなことよりも、はるかに彼の胸をざわめかせる違和感があった。
『あの存在は、少々怪訝しい』
サーヴァント――ではない。それほどの魔力を有している訳ではない。ならば魔術師かというと、それもまた違う。それよりは逸脱している。無論、聖堂協会の構成員など、多かれ少なかれ逸しているものだが……。
そうではない。あの男は、違う。
アーチャーの神羅万象を見通す眼が、対象を解析する。
その存在……。それが成立するとするならば……?
精良な頭脳がひとつの結論を導き出す。
『そうか……しかし……』
しかし、そんなことがあるだろうか。
『アーチャー? 何か判ったのですか?』
『まだ確定した訳ではありません。ひとつのことを除いては……』
『ひとつ?』
『ええ。不確定要素は排除するべき、ということです』
二条連なった矢が、森の空気を切り裂いた。
脚を狙って尋問しようなどという油断は、アーチャーにはない。ひとつは心臓へ、もうひとつは頭へ。仕留めることだけを目的にした二矢。
夜の森。音もなく放たれた、不可視の矢。並の魔術師どころか、低級のサーヴァントすら屠るに足る射撃。それを――。
神父は避けた。
頭への一撃を躱し、心臓への一撃を、手にする刀で叩き落とした。
(見切られた、というよりは……)
ケイローンは僅かな驚きと納得を以て、次の矢を番える。
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