衝撃
――今こそ好機。
”赤”の陣営は撤退、”黒”の陣営は勝利に浮かれ、またサーヴァント達は消耗し、こちらの動きには気付いていない。今なら、誰の邪魔も受けることはない。
ここはイデアル森林の最北端。清冽な湖が、息を潜めてその時を待っている。
準備は完璧。あとは事を為すだけ。
「先生! いよいよですね!」
隣で目を輝かせるロシェの存在は想定外だったがな、と”黒”のキャスターは仮面の奥で呟いた。彼に覚られぬよう城塞を出たつもりだったが、目敏く見つかってしまった。
幸運なことに、マスターも自分と同じ、聖杯大戦などどうでもよく、宝具の完成を望んでいるらしかった。このタイミングでの発動に不審を抱くことなく、また他のマスターに知らせようともしなかったので、こうして起動に立ち会うことを認めたのである。
傍らの「炉心」を一瞥し、アヴィケブロンは湖に手を浸した。
悲願の達成を目前にして、しかしただ粛々と。
” 地に産まれ、風を呑み、水を充たす。
火を振るえば、病は去れり。不仁は己が頭蓋を砕き、義は己が血を清浄へと導かん。
霊峰の如き巨躯は、巌の如く堅牢で。万民を守護し、万民を統治し、万民を支配する貌を持つ。
汝は土塊にして土塊にあらず。汝は人間にして人間にあらず。汝は楽園に佇む者、楽園を統治する者、楽園に導く者。汝は我らが夢、我らが希望、我らが愛”
さあ、神の起源を思い出せ。
我に苦難を与えよ! 然る後――。
”聖霊を抱く汝の名は――『原初の人間』なり”
――そして。
湖から、彼は姿を現した。
「これが、原典にもっとも忠実なゴーレム……」
マスターの言葉など、もうアヴィケブロンの耳には届かない。
炉心を取り、彼の胸へ――偉大なる守護者の胸へ。
斯くして奇蹟は達される。
草木は茂り、自然の賛歌を唄う。
禽獣は縋り、自ずと生命を供す。
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