撤退
不気味な沈黙が降りていた。
少年がたった今告げた願望――その意味を、誰もが計りかねていたのである。
時間稼ぎの戯れ言か? 何か裏で策を打っているのか? それとも……。
全人類の救済を、本気で為すと――為せると思っているのか?
「言いたいことはそれだけか、蛮族よ」最初に動いたのは”黒”のランサーだった。「我が居城を壊して、無事にいられると思っているのか? それはまた随分と――」
睨み上げるランサーの視線を、シロウは片手で遮った。
「宝具を使うつもりならば、お勧めはしませんよ、ワラキア公」
「何だと――?」
「気付きませんか?」軽く肩を竦め、シロウは足元を指す。「ここの地脈は、既に私が支配しています。貴方が『護国の鬼将』で拡げた領土は、今や貴方のものではない。――この意味は判りますね?」
ランサーの宝具『極刑王』は、予め確保された領土内においてのみ、最大の効果を発揮する。大地から無数の杭を出現させられるのは、この領土内に限った能力であり、そうでない場合は大幅な弱体化を避けられない。
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