ウェルカム・グッドナイト
音を立てず、静かに車が停止する。膝に乗り、車の窓に顔を貼り付けていたレヴィを首根っこを掴んで引きはがし、手に装着したベーオウルフを前の席に向かって伸ばし、機械がクレジットの清算を行い、無人タクシーでの料金の支払いが終了する。そして、扉が開く。
もう既に空は暗く、時刻は夜となっていた。
「ほら、でたでた」
「うにゃぁー」
入り口に近い他の子達をタクシーからおろし、レヴィをタクシーの外へと運び出す。全員がタクシーから降りたところでレヴィを解放し、腕を組む。そうやって、目の前にあるマンションを見上げる。ミッドチルダでは珍しくない建造物だ。クラナガンにあるという事を考えると少々高いが、それでも一人暮らしには十分すぎる程の場所だ。まあ、もちろん自分が住んでいる場所だ。
「ついたぞー。誰もはぐれてないなー」
「さっそくレヴィがどこかへと行っちゃいそうです」
「こらこら」
「えへへへ……」
ユーリが即座にキョロキョロとしながら街の中へと進みそうなレヴィの様子を伝えてきてくれる。このアホの子がこれ以上逃亡しない様にもしっかりと手を握り、逃げられないようにする。空港で見た時のコイツとはあまりにも姿が違いすぎる。少しはあの時並に落ち着いてくれないのだろうか。……いや、それは高望みというやつだろう。
「んじゃ中に入るぞー」
「はーい」
歩き出すと声を揃えて返事してきたマテリアルズが後ろからついてくる。流石にマンション内に入ればレヴィもむやみやたら歩き出さないだろうと、手を離してその手をポケットの中に突っ込む。その中から鍵を取り出し、それにつけているキーホルダーで少しじゃらじゃらと音を立てながら遊ぶ。向かう先はマンションのホールにあるエレベーター、そこから一気に五階まで上がる。その為にもエレベーターへと向かうが、予想外といった風にディアーチェが声を漏らす。
「意外といい所に住んでおるのだな。もう少し……こう」
「ボロい所を想像してた?」
「端的に言ってお金と縁のなさそうな顔をしてますからね」
「その発言覚えたからなシュテル」
はぁ、と溜息を吐いてやってきたエレベーターに乗り込む。
「言っておくが、嘱託魔導師ってのは結構な高給取りだぞ? 総合AAランクってなると出動も週に2回か3回ぐらい、1回の出撃で大体15万から20万の収入、生活費やら出費なんかを入れると手元に残るのは月30万程。嘱託魔導師でもう9年は食ってるんだし、それなりに貯金してあるんだよ。まあ、総合AAで正規の管理局員だったらこれ以上儲かるけど今度は遊んだり散財する時間が無くなるけどな。ほんと管理局さんはブラックだなぁ。今回も1人に任せる様な現場じゃなかったし」
「それってつまり”俺は超凄いぞー!”系の自慢だよね?」
「お前なんか生意気になったなぁ……!」
「あー、頭ぐりぐりするのはやめてー!」
エレベーターの中、レヴィの頭を両側から拳で抑え込んで、ぐりぐりと押しつける。レヴィが目をぎゅっと閉じ、そしてうわぁ、と声を若干楽しそうに漏らしている。
「レヴィのやつがもう懐いておるようだな……」
「しかし王よ、レヴィは我々の中では一番人懐っこい……」
「あ、あの、シュテル? ディアーチェ? 何かネタを言うノリで特に考えずに発言するのは危ないんじゃないかなぁと私は思うんですけど」
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