ハーメルン
千紗希さんの悩み事
二日目・夜 キャンプファイヤー

 肝試し大会が終了し、生徒たちはホテルに戻って入浴の時間となる。
 ホテル屋上の露天風呂が浴場だ。
 男湯も女湯も非常に広いので、二組ずつ入る。
 宮崎千紗希は満月が浮かぶ夜の海を、湯に浸かりながら眺めていた。
 青白い月光が雲や海面を照らし出す様はどこか神秘的で、つい見とれてしまう。

「千紗希、千紗希」

 そんな彼女の肩を、三浦博子がチョンチョンとつついた。そばには柳沢芹もいる。二人とも険しい顔をしていた。

「どうしたの?」
「あんたこそさっきはどうしたのよ。何か帰りが遅かったじゃん」
「やっぱり冬空に何かされたのか?」
「……ああ、その事」

 千紗希は冬空コガラシの信用のなさに苦笑いしつつ、事情を話した。

「──それで、久我くんが助けに来てくれたの。冬空くんとも何ともなかったから、大丈夫だよ」
「そっか、ならいいけどよ」
「それにしても久我っちホントに有能だねぇ~、手懐けた甲斐があったわ。さすがアタシ!」

 博子は何故か誇らしげである。

「……久我と言えば、博子。お前アイツとはいつどこで知り合ったんだよ。お前にあんな知り合いがいたなんて、アタシ等全然知らなかったぞ?」
「去年の夏休み」

 博子は芹の問いにサラッと答えた。

「みんなで心霊スポットに行ったのよね。あんたと千紗希はちょうど帰省してたから来れなかったけど」
「ああ、そういえば去年そんなメールしてたね」

 千紗希が思い出してそう言った。

「それでねー、行ったのはいいんだけどマジで幽霊が出ちゃったのよ。自分の生首抱えた落武者系が! みんなビックリして逃げたんだけど、アタシ転んで足首捻っちゃってさ、逃げ遅れちゃって……そしたらそこにヒョッコリ久我っちが湧いて出て、その落武者系幽霊をやっつけてくれて──あの時アタシ思ったの。こいつと仲良くなっておけば、いつかどこかで絶対役に立つって。それで、口八丁でアイツの連絡先聞き出して、次の日にはお礼とかして上手く手懐けたって訳」
「清々しいくらい打算的だな」

 芹はあきれたように呟いた。

「て事は、別に彼氏でも何でもないのか」
「んー、見た目は悪くないとは思うけどアタシの好みからするとちょっと厳ついし、あのトッポいとこが妙に子供臭いってゆーか」
「海水浴に制服で来るやつだしな」
「そういう訳だから安心してね、千紗希」
「何が?」

 いきなり話を振られて、千紗希は首を傾げた。

「何がって……いやいやいやいやいや、久我っちに気があるとかそっち系じゃないの?」
「あたしが? 久我くんに? どうして?」
「どうしてって、お前昼間の海水浴でもアイツと手ぇ繋いでただろ! プチ男性恐怖症のお前が!」

 千紗希の言葉がよほど予想外だったのか、芹の声が若干大きくなった。

「……ああ、そういえば。でもあれはそんな、変な意味じゃないよ。んー……何て言うかな、さっきの博子じゃないけど、久我くんってちょっと子供っぽいところがあるって言うか……何だろう、弟みたいな感じがするの」
「オトートぉ?」

 芹と博子は思わず声をハモらせた。
 一瞬の間を置いて、同時に笑い出す。

「アッハッハッハッ! 何それ、アンタ久我っちの事そんな風に思ってんの?」

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