ハーメルン
ラストダンスは終わらない
016.『掌の上』【艦娘視点②】

 それは遡る事、数時間――。



◆◆◆



 提督に海図と共に指示されたルートで海上を進む。
 そのルートは妙なものだった。
 意味があるのか、途中まで第二、第三、第四艦隊は同じルートを進む。海上を切り裂くようにジグザグに進み、最後に三方向に分かれて目的地である小島へと向かうのだ。
 そのナビゲートは、提督にくっついていたこの見慣れない妖精さん達がしてくれるらしい。
 道案内をしてくれるだろうと、提督が私達に預けてくれたのだ。

「で? 大淀。あの新しい提督はどうなの?」
「フフフ、あいつは出来る奴だ。何せ着任して早々、この天龍様を旗艦に据えるぐらいだからな」
「天龍には聞いてない!」

 川内さんの問いに、何故か天龍が満足気に答えていた。
 よっぽど嬉しかったのだろう。周りの第六駆逐隊が「天龍さん、おめでとうです!」「もっと私に頼っていいのよ!」「天龍さんが報われて良かったのです!」「ハラショー」などと持て囃している。
 私は川内さんを見て、正直な気持ちを答えたのだった。

「私個人としては……信頼できると思っています。しかし、この遠征の意図は、未だ読み取る事はできません……」
「そっかそっか。大淀でもわかんないんなら、誰にもわかんないね!」
「フフフ、オレにはわかるぜ。このオレの強さを存分に発揮できる戦場が……」
「だから天龍には聞いてないから! あっ、そろそろ進路を北東に変えるよ」

 川内さんは明るくそう答えてくれたが、実際の所はどうなのだろうか。
 意図のわからぬ戦場に送り込まれて、皆そう納得できるほど強くはない。
 やはり、提督にそこだけははっきりとして頂くべきだったか。

 いや、着任初日でまだわからない事も多いであろう提督が、この大淀をわざわざこの部隊に配置したのだ。
 その意図を読み取る事ができねば、あの人には置いて行かれてしまう。
 考えるのだ。
 提督の指示は、『高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変な判断と共に行動せよ』との事だった。
 それはひどく曖昧だが、それだけ予測のつきにくい戦場になるという事だろうか。
 逆に考えれば、それだけ予測のつきにくい戦場に私が配置されたという事は、提督の信頼の証だ。
 現在の鎮守府で提督に最も近いこの私がいち早く提督の意思をくみ取り、まだ提督との信頼関係の薄い艦娘達に伝えてほしい、と。

――もちろんです。提督が私に注いでくれたこの信頼、大淀、確かに受け取りました!

「案外、適当に考えてたりして~」

 龍田さんがそう言ったので私は思わず勢いよく振り向いてしまった。

「提督はそんな人じゃありませんっ!」
「お、大淀、落ち着いて」
「あら~、随分お熱なのね~?」

 夕張に宥められ、龍田さんのにやにやとした笑みを見て、私ははっと我に返る。
 謀られた……やはりこの人は少し苦手だ。
 くそう、顔が熱い。

「フフフ、大淀。お前もそう思うか? あの提督はそんな適当な奴じゃあない。何せこの天龍様を」
「天龍ちゃんには聞いてないわ~」

 龍田さんのせいでペースが乱れてしまったが、天龍の意見には私も同意だ。
 あの人が適当な采配をするはずが無い。
 今にして思えば、天龍をあえて旗艦に据えたのも悪くない采配であると思う。

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