彼女は望まれていなかった
ゆっくりと目を開けた先に見えるのは闇だった。完全に闇に包まれた空間の中に自分はいた。さて、ここからどう動くべきだろうか? エスコートを待つべきか? そう考えた矢先、闇の世界が足元からわずかに灯り、先へと進む通路が見えて来た。どうやら自分が文句を言いだす前に用意してくれたらしい。何とも憎い演出ではないか。そう口にしながら前へと向かって歩き出す。歩くたびに靴の裏から鋼の硬質な感触を受け、だんだんと進むにつれて明るくなって行く通路内の中、奥が見え始めてくる。やや広めになってくる通路内で、行く手を遮る様に浮遊する卵型のロボットには見覚えがある。数年前から彼があれこれと便利に使っている玩具だ。やれやれ、こんなエスコートは頼んでいないのだが、と呟きながら片手で頭の上の黒いボルサリーノ帽を抑えた。自分のこのトレードマークはなくさないようにしっかりとつかんでおかないとならない。故に右手を帽子を押さえるのに使ったまま、前へと向かって飛び込んだ。
それに反応して二体の卵型ロボットも加速してくる。瞳の様なレンズを光らせ、此方へと向かってレーザーを放ってくる。その出だしを見極めて悠々と回避しながら、左手を振るって袖の中にしまっていた自分のデバイスを取り出した。左手に簡単に収まる細長いそれは一本のクダだ。召喚専用、それに特化したデバイス。どんな次元、どんな次元断層の中であっても問題なく召喚機能を発揮させられるように開発され、それ以来愛用している召喚専用ストレージデバイス。戦闘能力は欠片も存在しないそれを軽く振るえば、中央部分が開き、起動状態に入る。
それと同時に召喚魔法と固有がリンクされ、一瞬で召喚が発生した。
次元を裂いて出現した裂け目から龍の獄炎が放たれた。それは一瞬でロボットの姿を飲み込むと、跡形もなくそのロボットのみを蒸発させ、形さえもあとには残さなかった。軽い運動にはなったな、と思いつつさらに先へと進んで行くごとに、さらに道は広く、そして明るくなって行く。だんだんとだが壁の塗装や紋様が見えてくる。そう思っているとまた新たにロボットが近づいてくるのが見える。今度のは先ほどのよりもかなり大きなサイズをしたロボットだった。彼の遊び心にやれやれ、と思いながらも再び召喚魔法を発動させる。
虚空から出現した無数の巨大な拳が弾丸、雨霰の様に一気に降り注いだ。残像を残さず放たれた無数の拳は敵が破片となって完全に形を失ったのを確認すると、最初から幻であったかのようにその姿を消失させた。その残骸ですらない姿を回避しつつ進み、そろそろ彼の歓迎の仕方を少し考えるように言うべきだろうか、と考え始める。まぁ、彼の悪癖に関しては今始まった事ではない。苦言を呈したところでそこまで効果はないだろう、とどこか諦めを感じているのは事実だ。
それはともかく、奥へと向かって進んで行くと先ほどまでの妨害はなく、段々と施設的な側面が強くなって行くのが見える。剥き出しの配管やコードの類が良く見られるようになり、設置されたカメラもいくつか見える他、設置されているコンソールの類も見かける。しかし、自分の直感は奥、更に奥に彼がいると告げている。そのため、他のものには特に目もくれず、前へと向かって進んで行く。
そうやって先へと進んで行けば、やがて大きな鋼の扉の前に到着する。クダを出して少し強めにノックすべきだろうか? そう考えた所で、
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