ハーメルン
虹に導きを
そして彼女は死の道を選んだ

 少し無茶をしてしまったせいか、体に少しだけだるさを感じる。流石に他人の未来を遺伝子を辿って意識を召喚させるのは無理があった。でも奇跡を起こすヒーローとしてはこれぐらい出来なきゃ駄目だよな、というのもあるので、疲労に関しては未来の方向へとぶん投げる事にした。そんな事を考えながら変わる景色の中を歩けば、自分を取り巻く環境が一瞬で変化するのが見えた。

 破壊されたシュトゥラのポートから一気に状況は綺麗に整頓された部屋へと変わっていた。その部屋の中にはテーブルと椅子があり、他にはベッドの姿なども見える。おそらくは私室なのだろうか、椅子の一つにゆったりとしたドレス姿で座っているオリヴィエが見える為、おそらくはここが彼女の部屋だと思われる。だが彼女と向き合う様に、男の姿が見えた。

「オリヴィエ、解ってくれ」

「いえ、今更兄弟面しなくてもいいですよお兄様。お兄様の言いたい事は解ります。他の王族を使用するよりは継承権のない私を使った方が遥かに効率的ですと」

「……理解してたか」

 えぇ、とオリヴィエは頷いた。

「私が王宮から離れていたのも事実ですし、政治から離れていたのも事実です。私が政治を学ぼうとすればそれだけでいらぬ疑いを生み出すでしょうからなるべく身を遠ざけてきましたが、それほど愚かではありません。そして同時にお兄様やお姉さま方が私を道具としか考えていない事も理解しています……いえ、まぁ、王族としては正しいのでしょうが」

 そう言ってオリヴィエはですが、と言葉を続けた。

「私を侮り過ぎです。目を見れば大体の意思は読めます。お兄様方の目的も解っています。ゆりかごによる電撃作戦。禁忌兵器の中でも最強格であるあれが行動を起こせば確かに一瞬で制圧できるでしょう。それに継承権を持たない私を使うのがおそらく、消耗としては最も最小限である事も理解します」

「……やはり腐っても元継承権1位の怪物か」

「えぇ、ですが心のある怪物であるつもりです。お引き取りを、お兄様。返答は近日中にさせていただきます。えぇ、リッドにも会いたいですしね。確かポートで問題が発生して遅れているんですよね? ならその分、数日待ったところで問題はありませんよね?」

「解った、この話はオリヴィエの覚悟が決まるまで俺が握っておこう。ただ、ゆりかごに乗るまでの時間が延びれば延びる程、国土が荒れ、人が死ぬ。聖王陛下も一時的な戴冠を許すと言っている。判断は早めにしておいてくれよ」

「えぇ、解っていますよお兄様。私もこう見えて王族の端くれ。その義務からは解き放たれましたが、国の事は常に想ってきました。無闇に荒れるのは私としても好ましい事ではありません」

「そうだといいんだがな……」

 そう言葉を残し男は部屋を去った。その後姿をオリヴィエはつまらなそうに眺めていた。完全に扉が閉まって、そして気配が去ったところでオリヴィエは溜息を吐いた。そこには呆れを感じさせるものがあり、またそれとは別に、深い悲しみを感じさせるような溜息でもあった。そのまま、頭を伏せるようにテーブルの上に叩きつけた。小さくごんっ、と音が鳴り、

「痛っ」

 と、オリヴィエが声を零した。だがそのまま数秒間無言のままテーブルに突っ伏していた。その姿はかつて、この王宮にいたオリヴィエとはまるで違う。いい意味で、彼女は世俗に塗れた。なんというか、そう、

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/6

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析