愛しいと、そう思った
「む、才能ある子供の気配がするね?」
イリスの代わりにフィルの顔面にビンタを一発叩き込んでおく。やっぱりこいつ、放っておくと絶対に辻養子縁組を始めかねない。それはともあれ? 今日は一人というのは中々に珍しいものを感じる。
今日はどこの子供をハントしに来たのだろうか?
「そんな変態みたいに言わないでくれよ。これだよこれ」
フィルはそう言うとズタ袋を担ぐようなポーズをした。あぁ、成程。
ついに攫うのか。
「イリスに怒られるから止めてくれよ。クリスマスだよ、クリスマス。プレゼントの受け取りがあるからね。イリスが居ない間に回収に向かおうかと思ってね」
そう言うフィルはどことなく、楽し気な気配をしている。いや、実際に楽しんでいるのだろう。彼が前の世界ではどういう悪人だったかは全く興味はない―――というか絶対に悪人だっただろうなぁ、とは予測がつくのだが―――少なくとも、この時間軸、世界におけるフィル・マクスウェルというのはちょっと奇抜ではあるものの、悪い父親ではない。
彼はちゃんと、自分の娘の幸せを願えている。
「ま、私はそろそろ娘が出かけている間にプレゼントを受け取りに行くよ。じゃあね」
そう言うとフィルはそのまま、デパートの方へと向かっていった。娘―――つまりはイリスのクリスマスプレゼントを受け取りに行ったのだろう。奇行が目立つ部分もあると言えばあるのだが、それでもフィル・マクスウェルがちゃんとした親をやれているのはまた事実だ。その姿を見ていると、自分がこうやって悩んでいる姿が少し、悲しくなってくる。
アレでさえ親の真似事は出来るのに……。
いや、まぁ、フィルは結婚せずに養子縁組でイリスを引き取ったから参考になると言えば微妙なのだが。それでも親子としてちゃんとイリスに対して愛を注げている姿を見る限り、アレは誰かを愛する人としては、自分よりも上等なのかもしれない。
フィルが消えた方から視線を外す。そして視線を近くのウィンドウへと向ける。
デパートのウィンドウの中には、コートなどが飾られているのが見える。何か、手土産があった方が良いのかもしれない。そんな事を考え腕を組む。だがプレゼントを用意したら、それはそれで物で釣っているようで、ちょっと、個人的にもにょる部分もある。ここはやはりストレートに言葉で決めるべきだろうか?
あぁ、馬鹿々々しい。こんなの全く自分のキャラではない。もっときざったらしく、しかしストレートに言ってのけるのが自分というキャラクターではないだろうか? 少なくとも、ここでぐだぐだと悩んでいるようなタイプではない。
流石にここまで、引っ張りすぎたのが原因なのではあるのを自覚している。とはいえ、答えを出すのであればなるべく真摯に向き合いたいというのも事実だった。
―――オリヴィエの好意に対して。
彼女が唯一頼れる人物だから俺に惚れている―――という訳ではなく、全うに一緒に暮らして、そして好意を向けてきている。その事実を良く理解している。始まりは歪だったかもしれないが、今の彼女は自立している。その上で好きだ、という感情を向けてきている。
そろそろ、そろそろ答えなきゃならない。
明確な言葉で。
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