彼女はそうやって愛を抱く腕を失った
気配を追って歩けばすぐにオリヴィエと、その手を引く女の姿が見えた。それ以外にもここには大量の鎧姿の騎士の姿が見え、城内らしき場所であると把握が出来た。やはり、彼女がオリヴィエだとして、この年齢であればおそらくは古代ベルカ王城……とでも呼べる場所になるのだろうと思う。それにしても普通に王女二人の後ろを歩いていても誰もこちらを不審がる事はなかった。本当にジェイルの技術は完成度が高いらしい。ここまで完璧に他人の人生にダイブ出来るとは―――ある意味、これは悪魔の発明かもしれないな、そんなことを思わなくもない。と、後ろを歩いていると二人の会話が聞こえてくる。
「まったく信じられないわ……オリヴィエがまさかの継承権1位だなんて」
「お姉さま、オリヴィエは未熟です。確かに継承権は1位ですがまだ若く、経験も知恵も足りません。私が玉座につくことはおそらくありません。王としての象徴は強く、たくましい方が民に安心感があるからおそらくはお兄様の誰かが―――」
「何でもすぐに覚え、実行できるお前がそれを言うのかしら? 本当に母の才能も命も奪った子は言う事が違うわね。それで謙遜しているつもりなの? 才能も努力も一番している子がそういうと嫌味でしかないのよ」
「すみませんお姉さま」
「別にいいわよ……貴女の事を姉妹と本気で思ったことはないし」
その言葉にオリヴィエが俯く様に視線を下げた。言葉がそこで完全に停止し、オリヴィエが黙って手を引かれるがままに奥へと進んで行くのを後ろを歩いてついて行く。どうやらオリヴィエ・ゼーゲブレヒトという女は幼少期はかなり疎まれていたらしい。話を聞く感じ、オリヴィエの出産時に母親が死亡した、という形だろうか? 聖王教会の公開情報ではそんな話をまるで聞いたことがないという事は、
『おそらくは聖王教会でも記録されていない事か、もしくは閉ざされた聖典にでも記録されている事なんだろうね。どちらにしろ、歴史にはあっても現代には語られていない真実の1ページを君は目撃し、知ることが出来た。なかなかの成果じゃないか』
横へと視線を向ければ、半透明のジェイルの姿がややかすれつつも見えた。どうやら現代との通信が回復したらしい。歩くのを止めずに進んでいるとジェイルのホロは足を動かさずにスライドするようについてくる。やはりこっちに来ているのではなく現代から通信を繋げているだけらしい。それはともかく、遅かったな、と思わずにはいられない。そう指摘するとジェイルが少しだけ困ったような様子を浮かべていた。
『いや……まぁ、予想通り、のダイブでもないというか……ほら、予想していた時代よりも遥か前に接続したことでなんとなくだけど完全な成功じゃないというのは理解しているだろう? うん……失敗じゃないけどイレギュラーかなぁ! ごめんね!』
こいつ反省してねぇな? そう思いながらも初の試みである以上、仕方がない部分があるのは察していた。だけどまぁ、とジェイルは呟きながらホロを消失させた。
『此方から常に君の状態はモニタリングしているよ。君の存在証明率は現在100%だ。つまり100%この世に存在しているという事を証明できている。だから安心して歴史の追体験を進めると良いさ』
言われなくてもそうするつもりだ。ただこの少女オリヴィエがこう、周りからいじめられている姿を見るのは正直心苦しい。できるのであれば手品の一つでも披露して笑顔にしてあげたいところだが、ジェイルの言葉が正しければこれは遺伝子を通して時空をハックして目撃している歴史の追体験。つまりは既に終わり、閉ざされた歴史の出来事だ。干渉する事は出来ない。映画館で上映されるのを椅子から見ているのと同じ状態だ。フィルムをバラバラにしても事実が変わる訳ではない出来事だ。
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