ハーメルン
虹に導きを
その腕は命を壊す為に生まれた

 むくり。そんな声を零しながら起きた。即座にあまりにも輝かし過ぎるイケメン顔を隠す為の帽子を召喚で取り出して被り直す。ジェイルが実験に使用する場所と聞いて、もしかして寝る場所ないんじゃないか? と思っていたが、普通にキングサイズのベッドが置いてあった事には助かった。流石にベッドまで召喚するのは面倒なのだ。そう思いながらベッドから起き上がり、召喚で着ている服装を新品のものと切り替える。あくびを軽く漏らしながらふぅ、と息を吐いて、立ち上がる。

 愛用の歯ブラシセットやお風呂セットはちゃんと召喚でいつでも手元に呼び出すことが出来る。そのことを伝えると能力の無駄遣いと言われてしまうが、便利に使えるものを何故使わないんだ……という見識に関しては友人である彼と完全に同意する事なのだ。ここら辺、自分とジェイルは凄く息が合う。それはそれとして、欠伸を漏らしつつそろそろ歯を磨いて顔を洗うか、と、のしのしと足を引きずる様に歩き出す。

 部屋の自動ドアにかけていた呪いを送還させながら開き、その向こう側に出て鋼の通路を見た。昨日の内に館内地図を確認しておいて良かったと、内容を思い出しつつ、風呂場へと向かうためにクダを取り出す。毎度毎度転送装置やエレベータを利用するのも面倒だ、自分の現場に召喚してしまえ、思ったところで、隣の部屋から出てくる小さな姿が見えた。

「ぉ……は……よぅ……」

 眠そうに目をこすりながら掠れる様な舌足らずな言葉で少女が部屋から出て来た。その片手は人形のウサギの耳を掴んでおり、それを引きずる様にふらふらと歩いていた。危なげな姿に近づいて片手で持ち上げる。まだうとうととしているようで、目を開けたり閉めたりを繰り返し、今にも夢の国へと旅立ってしまいそうな姿だった。

 この子がオリヴィエのクローン……そのことを思い出しつつ、似ても似つかない姿に、やはり人物とは環境でどうにかなるもんだな、とこの姿を見ながら思った。オリヴィエの周囲の環境は悲惨の一言に尽きた。両腕が失われて初めて人間として見られる程には。オリヴィエにはいなかったのだ―――母親、人間とは何か、愛を与えられるとはいったいどういう事か。それを教えてくれる人間がいなかった。

 そしてこの子もそうだ。父も母も存在しない。故に愛に飢えている。

 軽く頭を撫でながら朝風呂を浴びてから歯を磨いてシャワーにするか、と聞いてみると頷きが返ってくる。このまま風呂の中で溺れなきゃいいんだけどなぁ、と苦笑しながらクダを軽く振るって召喚魔術を使って、風呂場の方へと自分を召喚し直す事にする。





「やぁ、おはよう。ぐっすり眠れたかな? 君の部屋に置いたアロマポットはアレでも貴重品でね、役に立ったのなら幸いだよ」

 朝食を済ませて実験室の方へと戻ると、既にジェイルの姿があった。とはいえ、疲れている様子も無理をしている様子もない。それに予想以上に良い部屋だった。おかげでぐっすり眠れた、と朝の挨拶を返しながら返答した。なんというか、ジェイルって結構被験者とかに対しては大事にするし、無理に徹夜して研究とか進めないよな、と言う。それにジェイルはもちろん、と答えた。

「実験とは不確定要素の塊だ。そして難しい研究とはエラーが段々と増えて行くものだ。だとしたら焦るのが一番やってはならない事だ。寝ないで作業なんて脳を酷使して作業効率を下げるだけだ。被験者は貴重な実験に参加する為のキーなんだ、一体どこの馬鹿がそれを使い潰すと言うんだい? 大事な実験だからこそ割れ物を扱う様にメンタル、ボディどちらのコンディションも常に最高の状態でキープするべきなのさ」

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