ハーメルン
虹に導きを
彼女の青春はそうして決意を抱かせた

『シンクロ率の向上を観測―――タイムハックの成功を確認―――存在率100%の維持を継続―――良し、時間軸への介入が出来た。気を付けてくれ給えよ、前よりも介入難度が上がっているから君とオリヴィエのシンクロ率を向上させている。其方での影響を君も受けやすくなっているからね』

 そこは安心しろ、と現代から繋がる通信へと声を向けた。召喚という概念の延長戦で憑依と付与には日常的に触れ、研究し、何度も構築を繰り返してきた。その上で精神汚染や自我境界線の崩壊などに関しては何重にもセーフティをかけている。これは基本的なものだ。霊、化身、龍、概念、それに触れられるようになるとそれに精神が耐えられなくなるケースが出てくる。召喚というスキルが珍しいのは契約の際に発生する死亡率の高さや、高位の存在と契約する場合に発生する難しさと、その後の維持で発生するコストや精神汚染の問題が付きまとっているからだ。

 そこらへん、自分は全部クリアしている。その為、そういう危険性を心配する必要はない。なぜ自分がこの時空に干渉できたのか、そのタネが割れた以上、オリヴィエが此方の技能を少しずつだが意識して使用し始めていたことに対する答えは出ている。もうこれ以上、無意識的に使うようなことはないだろう。

『ま、君がそういうのなら信じるさ。やると言ったら確実にやらかすタイプだからね』

『ドクター、それ世間じゃ信頼ゼロって言うんです』

 俺とジェイルの知っている業界とは違う……そんな事を考えていると、世界の景色が変わって行く。青い空が広がって行く中で、足元は踏みしめられた大地が広がっており、ところどころ花や草によって飾られており、広げられた空間は運動するには適した場所の様に思えた。そして正面の景色の中で、二つの姿が対峙するのが見えた。それは動き出す直前であり、瞬間、自分が登場するのと同時に動き出した。それに一番最初に反応したのは、

 横の方で大地に座り込んでいたヴィルフリッドだった。此方が出現した瞬間に怠けていた表情を整え、あっ、と声を漏らした。

「クラウス―――! ガード! 魔力を全力でガードへ―――!」

 ヴィルフリッドの悲鳴の様な声が響くのと同時に、オリヴィエの残像が正面からクラウスと呼ばれた青年の姿を捉えた。素早く体を低くしながら踏み込みつつ陣地を侵略するように、一瞬で自分の立ち位置を調整した。手で押し出そうとする相手の動きを制しつつ、そこで、と気迫を込めればオリヴィエの足が残像を残して振るわれた。全力、魔力は乗らない一撃が王子の姿を捉え、大地から引き剥がしながらその姿を浮かび上げながら蹴り飛ばしそうになる。心の中で行け! そこだ! 逃がさず手元に寄せるのだ! と、エールを送ればそれに反応するようにオリヴィエが動いた。

 召喚魔法で吹き飛びそうだったクラウスを手元へと呼び戻して、蹴り飛ばす。全力の蹴りを普通は叩き込めばそのまま吹き飛んでしまうため、連撃前提の蹴りはある程度相手を吹き飛ばさないように力を抜く必要がある。だが自分が考えたのは相手が吹っ飛んでも手元に呼び寄せればいいんだよ! という発想であったので、全力で蹴り飛ばしても大丈夫。

 逃げても大丈夫。

 相手が何をしても大丈夫。

 何をしようとも目の前に呼び出して蹴り飛ばせばよいのだから。

 自分のそのイメージが伝わったのか、横方向のリフティングの様な連続の蹴り作業はクラウスを蹴り飛ばしながら目の前に呼び出すという地獄のループを五周したところで襤褸雑巾となったシュトゥラの国の王子を大地に転がす事で完了した。完全にボール扱いだったクラウスが大地にピクリとも動くことなく転がりながら、ごふっ、とどこかコミカルな息を吐いた。それを見てオリヴィエが義手の拳を作った。

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