彼女の青春はそうして決意を抱かせた
「なんかできましたー!」
「く、クラウス―――!」
『あ、ドクターが今の映像でコーヒーを喉に詰まらせちゃって、医務室へと運ばれているためしばらく交代しますね』
過去と現代で同時に男をダブルノックアウトする女、オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。まさに魔性の女であった。そんな頭の悪い事を考えているとヴィルフリッドに一瞬だけ視線を向けられたが、急いでクラウスの方へと駆け寄った。そこにはどこかで見た、獣耳の生えた少女の姿もあった。オリヴィエも歩きながらクラウスへと近づき、
「大丈夫でしたか、クラウス? なんか閃いてしまった、と言いますか、アクセルがかかったと言いますか、いい感じにスイッチが入った感覚があったので瞬間的に何かやってしまいましたが」
「あぁ、うん。俺の事なら大丈夫ですよ、オリヴィエ。なんか、こう、そうだね……ボールでリフティングされ続けるのってこういう気持ちなんだなぁ、という二度と味わえない新鮮な気分を味わえましたから……」
「そんな経験忘れてしまえ」
「王子リフティング……流行る」
「待ってくれクロ、王子リフティングが流行るとはどういう事なのかぜひ俺に教えて欲しい」
うーん、このカオス、と冷や汗を掻きながら呟く。その原因はおそらく自分にあるのだが。ともあれ、どうやらこれで舞台の役者は全員揃った感じがあった。クロと呼ばれた魔女の少女は此方が見えないようで、クラウスに駆け寄ると回復の魔法をかけて傷やダメージを癒していた。此方を一瞥すらせず、気配も感じられない辺り、やはり未来の彼女が術を発動したのだろうと思う。周りへと視線を巡らせれば、どうやらここが学舎近くの空間であるのが伝わってくる。
他にも多くの人の気配を各所から感じる。そういえばオリヴィエは留学目的でシュトゥラへと向かったというのを思い出し、この魔女とクラウスが学友なのだ、というのを察する。しかし魔女っ子の方は同年代にしては幼く見える―――ロリババアなのだろうか? 流石に違うか、と自分の考えを否定しつつ会話へと耳を傾けた。
「それにしても入学してから4年が経ったけど、結局オリヴィエには勝てなかった……」
「私、こう見えて強いですから」
「人類最高峰の血統ダービーしている所と比べない方がいいよ。シュトゥラ王族って恋愛婚がある程度通るでしょ? ベルカは1から10まで全部そこらへんガチガチだからなぁー……生まれと才能からして次元が違うから、そこまで落ち込む必要はないと思うよ」
「今、さらっと今生における鍛錬の全てを否定されたんだが」
「気にしない……オリヴィエがおかしいだけ」
「えーと……ほら! 私よりもリッドの方が強いですから! つまりこの中で一番おかしいのはリッドです! 生物としておかしい!」
「ヴィヴィ様? ちょっとストレート過ぎない?」
そんな会話を繰り広げながらも四人は普通に笑っていた。鳴り響く鐘の音に自由時間の終わりが来たのか、鍛錬か、或いはじゃれあいを切り上げるとヴィルフリッドと魔女を置いてクラウスとオリヴィエのコンビが校舎の方へと向かって行く。授業に出るのは二人だけらしい。必然的にオリヴィエから離れられない自分はオリヴィエとクラウスの後を追う事になる。ヴィルフリッドと魔女を置いて、二人の後を追う。教室へと向かうオリヴィエとクラウスの会話が聞こえる。
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