第18話 ファーリス杯
「ふああ、ああ…」
「もう、何してるのよカミュ!だらしないあくびはしないの!」
「別にいーじゃねーか、誰も見てねーんだしよぉ」
体を伸ばしながら欠伸をするカミュはベロニカと一緒に競馬場の観客席に座り、ファーリス杯の開催を待っていた。
もうすぐ選手入場が始まり、一番にこの大会の主役であるファーリスが入ってくることになっている。
「念のため言っとくけどよ、エルバじゃなくてあいつだからな。応援するのは」
「そんなことわかってるわよ。あんな奴の応援するようなことになるのは癪だけど…」
昨晩のあのファーリスの態度は今思い出しても怒りがわいてくる。
その怒りが爆発するのが先か、それともファーリス杯が無事に終わるのが先かのかけでできそうなほどだ。
「はあはあ、カミュ様、お姉さま。お待たせいたしましたー」
遅れて入ってきたセーニャが2人の名前を呼ぶと、急いで彼らが確保してくれた座席に座る。
そして、2人にコナーファが乗った皿を渡した。
コナーファはサマディーでは伝統的なケーキで、チーズかナッツを包むか挟んで焼いたものをシロップでたっぷり味付けしたものだ。
「セーニャ…これを買うために遅れたの…?」
「だって、こういう競技ではスイーツを食べながらのほうが楽しいですから」
「で、素直に応援できる感じだったら満点だけどな」
「たく、セーニャはいつも…」
文句を言いたくなったベロニカだが、一口食べたコナーファのサクサクとした触感と絶妙な甘みでその言葉が嘘みたいに消えてしまった。
セーニャは旅の中でこうしたスイーツを買い歩くのが好きで、ベロニカも食費の節約のためにやめろと何度も言おうとしたがスイーツのおいしさのせいでいえずじまいになることが恒例となっている。
カミュもそれを口にしていると、ファーリス杯の選手入場を告げるラッパの音が競馬場中に鳴り響いた。
「いよいよだな…」
観客席のさらに上にある、王の間と直通しているベランダの席に座るファルス3世が隣に座っている妃と思われる金髪で薄いピンクのドレス姿の女性に言葉をかけた後で立ち上がる。
そして、持っている小さなカンペを見た後で咳払いする。
「これより、第16回ファーリス杯の開催を宣言する!此度は我が嫡男であるファーリスも参加する。選手の皆の健闘を心から期待する」
「それでは、選手とその愛馬の入場です!」
司会としてファーリス杯に参加することになったオグイの宣言とともに軍楽隊が演奏をはじめ、選手たちが馬に乗ったままコースに入ってくる。
先頭には一般兵の鎧を着た、先端がオレンジ色になっている白い鷲の羽根飾りをつけた兜で頭を完全に隠した男がフランベルグと共に入場する。
「みなさん、ご覧ください!こちらが今回初参加となるファーリス王子です!国王陛下が見守る中、どのような走りをお見せくださるのか、注目です!!」
「キャーーーー!!ファーリス王子ーー!!」
「かっこいいーー!」
若い女性たちは鎧の男がファーリスだと信じて疑わず、黄色い歓声を上げる。
「かっこいい…まぁ、顔立ちはそうだけどな…」
カミュは昨日のファーリスを思い出す。
確かに顔立ちや体つきについては中々で、女性に人気がありそうだと思える。
そんな彼女たちの幻想をぶち壊すようなものを昨日エルバ達は見てしまった。
もし、あの鎧の男の正体を知ったら、彼女たちは驚きのあまり卒倒しているかもしれない。
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