ハーメルン
異世界食堂another またはエル君の異世界食堂メニュー制覇記
6#偉い人を連れて行こう 前編
事の始まりは藍鷹騎士団のノーラがクヌート・ディクスゴード公爵に持ち込んだ報告である。
「…お主…この報告…正気で上げてきたのか!?」
「見たままを報告しております。」
ノーラを絞め殺さんばかりの公爵の剣幕に対し、何の表情もない顔と何の抑揚もない声とは裏腹に困惑しきった彼女が答える。うがーっ!と奇声を上げた後、クヌートは頑丈な執務机にゴン!と額を叩きつけた。そのままピクリとも動かないクヌートの様子に流石に青くなったノーラが人を呼ぼうとした時、クヌートがようやく顔を上げた。
「よい!まだ生きておるわ!」
今なお脳の血管が無事である事自体が疑わしいクヌートはノーラに指示を出す。
「あれの所業の詮索などやるだけ無駄!直接本人に問い質す!ノーラ、すぐライヒアラに走りエルネスティを此処へ呼…いや此処に引っ張ってこいッ!直ちにだ!…セラーティ候の庶子2人もだぞ!候にはわしが直に話す!」
「ハッ!」
翌日早々、カンカネンの王城内・高位貴族の執務室区画への通路にエル・キッド・アディの姿があった。
「残念だな~、今日は『ドヨウの日』なのに。」
「仕方がありません、ディクスゴード公爵閣下至急の呼び出しですから。」
「エル君は分かるけど…父さんの呼び出しって何だろうね?」
「さあな…あ、ここだ。じゃあエル、またあとで。」
「エル君頑張ってね。」
「はい、また後で。キッドもアディも頑張ってくださいね?」
「あの~公爵閣下、お体の具合は大丈夫ですか?」
「誰のせいだと思っておるかっ!」
既に沸騰寸前のクヌートがエルの余計な一言で爆発した。その噛みつかんばかりの怒声に流石のエルも首を竦める。
「やっぱり僕のせいですか?」
話を振られたノーラが無表情に頷くが、思い当る節がないらしい『はて?』という表情に切れたクヌートが怒りのままにストレートを叩きつける!
「貴様7日ごとにいったい『何処』へ雲隠れしておるっ!きりきり白状せいッ!」
クヌートとノーラにそれぞれ視線を送った後、エルはポンと拳を打った。
「ああ、ノーラさんが報告されたんですね?」
ノーラの頷きを確認したエルはクヌートに満面の笑みと共に向き直り、そしてこう言った
「実は友人達と食事に行っておりました!」
ゴン!クヌートが再び執務卓に額をぶつけ、ノーラが顎が外れんばかりの大口を開けて固まった…
「…き、貴様…貴様というヤツはァーッ!!」
「いやいや落ち着き下さい公爵閣下、全てご説明いたしますので…」
ほとんど発狂寸前のクヌートにエルはあくまでにこやか且つ冷静にプレゼンする、『異世界食堂』を…
およそ『常識人』ならば信じるどころか語る人間を狂人扱いして然るべき内容―その異世界にある食堂の『この世界に存在しない』料理がどれほど美味いか、その料理を求めてどんな人々が常連として通って来ているか―を嬉々として語る様に、クヌートは改めて、目の前の一見人畜無害な美少年が、その根っこから、完全に、どうしようもなく狂っている事を戦慄とともに思い知った。そんなクヌートの内面を一顧だにせずエルは執務卓に手を突いてずい!と顔を突き出した後、いきなり頭を下げた。
「申し訳ありません公爵閣下、僕は大事な事を忘れていました!」
「なんだ!?」
引くクヌートへのエルの台詞は以下の通りである。
「公爵閣下やノーラさん他藍鷹騎士団の方々にもさんざんお世話になった件を失念していたとは、なんという失礼!母様に叱られてしまう処でした。又、論より証拠と申します。閣下もノーラさん達も僕の招待を受けていただきたくお願いいたします!」
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