ハーメルン
転生河童の日常譚
第十三話 家族の絆

 フランドールとの戦闘終了後、私達は客用の寝室に訪れていた。
 拘束を解いた彼女はベッドに寝かせ、残りの面々は楽な姿勢で力を抜いている。

「ふぅ……」

 片腕で崩れたバランスを取りながら、私は咲夜が淹れた紅茶を口に運ぶ。
 鼻から入ってくる清涼な香りに、口内で広がるさっぱりとした味。
 疲れた身体に染み入る良いもので、思わず目尻を緩めてしまう。

「妹様の様子は?」
「大丈夫そうよ。気持ちよく眠っているだけ」

 美鈴の問いにそう返したレミリアは、優しい微笑を零して妹を一撫で。
 フランドールの寝顔は穏やかで、一定間隔で胸が上下している。
 とりあえず、魔道具の効果がちゃんと表れていて一安心だ。
 レミリアとの連絡が途絶えた時は焦ったが、終わりよければすべてよし。
 諸々の代償には目を瞑りつつ、まずはこの達成感に酔いしれよう。
 鼻からゆるーく息を吐いていると、レミリアがこちらに流し目を送ってくる。
 正確には、私の隣で図々しくもクッキーを貪っている文に。

「それで、何故この場に天狗がいる?」
「あ、どうもレミリアさん。このお茶請け美味しいですねー」
「質問に答えろ」

 剣呑に光る、吸血鬼の紅い瞳。
 小さな体躯から暴力的な威圧が漂い始め、呼応してか咲夜の表情も冷たく張り詰めていく。
 対して、パチュリーは読書しながら我関せずを貫き、唯一美鈴だけが慌てた様子で間に割って入る。

「お、落ち着きましょうよ、お嬢様! まずは冷静に抑えて抑えて!」
「私は冷静だ」
「そうですよー。偉大な吸血鬼様が、たかだか天狗一人如きに心を乱すわけないじゃないですかー」
「……私は、冷静だ」
「お嬢様!?」

 悲鳴を上げる美鈴をよそに、レミリアはベッドに座ったまま足を組んだ。
 右手を曲げて口元に添え、愉快げに目を細める。
 文の方も挑発的に見つめ返し、室内に重苦しい圧力が降りかかってしまう。
 このまま一触即発な状態が続くかと思われたが、意外な事に咲夜がこの場の空気を変えた。

「あっ」
「どうした、咲夜?」
「今日の夕御飯の仕込みを忘れておりました」

 辺りに微妙な空気が充満した。
 片眉を上げていたレミリアは肩をずっこけさせ、美鈴達もなんとも言えない面持ちだ。
 咲夜がミスをするとは思わなかったが、彼女も人間という事だろう。
 お茶目にしては、夕御飯抜きとか規模が酷いが。
 というか、これって私達のご飯もないのだろうか。

「申し訳ございませんが、今夜はサラダのみで」
「私はきゅうりが出れば文句はないけどさ……」

 レミリアなんてあからさまに不満そうな顔つきだし、美鈴に至っては絶望感に満ちた表情だ。
 胃袋を掴まれていると一目でわかるその様子に、パチュリーは呆れてなにも言えないらしい。
 嘆かわしそうに首を横に振っている。

「あやや。これは一本取られましたかね」
「んー? どうしたん?」
「いえいえ、なんでもありませんよー」

 朗らかな笑顔で流した文は、コホンと咳払いを落とした。
 自然と場の雰囲気が引き締まり、全員の視線が彼女に集う。
 ようやく本題に入れそうだが、果たして文が紅魔館に戻ってきた目的はなんだろうか。

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