第二話 慧音先生との歴史講習会
にとりとの話し合いが終わった後、別れた現在の私は人里の中にいた。
青のニット帽を被り、背中にはお馴染みのリュックを背負っている。
私以外の河童は野球帽のような物を被っているが、個人的にツバつきの帽子は合わなかった。
だから、こうして自作したニット帽を被っているのだ。
何事もなくすれ違う人間を見て、私は口角を吊り上げていく。
「ふむふむ。性能はばっちしだね」
リュックの中に入っている、大きな金属球。
この道具の性能テストを、今の私はしているのだ。
妖怪の賢者である紫の能力を参考に造った、その名も妖怪誤魔化し装置。
名前がそのままなのは、単に思いつかなかっただけである。
この重い装置を使えば、なんと人間と妖怪の認識をズラす事ができるのだ。
二つの境界を曖昧にしたと言ってもいい。
ともかく、今日はその試作品の稼働テストをしている。
結果は、上々。
誰も、私を河童だとは思っていない。
妖怪である私を避けないのが、良い証拠だ。
「後は、性能面の上昇と軽量化だね」
これぐらいの重さなら、まだ問題ない。
しかし、やはりもっと軽くしたいのだ。
ゆくゆくは、アクセサリーのような形状にするのが目標である。
まあ、当分は試行錯誤の毎日だろう。
それはそれで、楽しいのだが。
「んー」
人里を観察しながら、私はこの後どうするか悩んでいた。
このまま店に入るのもいいが、あいにく人里で使えるお金は持っていない。
この状態でやりたい放題すれば、ただの食い逃げや万引きになってしまう。
妖怪だからこそ、人間でのマナーは守るべきだ。
目をつけられないためなのもそうだし、なにより人間は盟友だからね。
自分から裏切るような真似は、しない。
「どうしよっかなぁ」
あ、そうだ。
人里には、あの人がいるのではないだろうか。
原作前だが、彼女は随分前から人里にいた気がする。
他にやる事もないし、早速会ってみよう。
思考で足を止めていた私は、向きを変えて歩みを再開するのだった。
♦♦♦
「お、いたいた」
私が向かった先は、寺子屋である。
十中八九いるとは思っていたが、外にいるとは運がいい。
わざわざ中に入らなくて済むし。
思わず笑みを零した後、私は寺子屋の前を掃除していた彼女の元に近づく。
途中で、彼女の方も気がついたのか。
振り向いて笑顔になったのだが、直ぐに怪訝げな面持ちに変わる。
そして、最後には完全に警戒した顔つきへと変化。
「止まれ」
端的にそう告げると、手を突き出して牽制する女性。
青がかった綺麗な銀髪を揺らしながら、油断ない態勢を取っていた。
ただ構えているだけに見えるが、その引き締められた厳かな形相。
不動の仁王の如く佇んでおり、彼女からは人里を護るという気迫が迸っていた。
これは、あまり刺激するとまずい。
なにが彼女の逆鱗に触れたのかわからないが、私は大人しく指示に従う。
手を上げて敵意がないのを示し、ゆっくりと穏やかな口調で告げる。
「落ち着いて。私は、貴女を害するために来たわけじゃない」
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