第11話 店名決定
「ほう。そのような話を」
感心したように呟いた主が続きを促す。
「単なる王ではその辺りの虫けらと変わりないため、もっと別のアインズ様に相応しい呼び方を考える必要があると。私はアインズ様の崇高なる賢知を讃え、賢王がよろしいかと愚考しました」
「……なるほど」
「それに対しコキュートスは多くの者達を支配し導くことになるアインズ様には、魔を導く王、魔導王が相応しいと。その意見には私も感服いたしました」
副料理長もその時のことを良く覚えている。
彼自身その名が主に相応しいと手を叩いたものだ。
「悪くない名だ。私が世界を手にした暁にはそう名乗るのも悪くない」
「そう仰っていただけると思っておりました。故にその名を知らしめ、尚かつこの世界、美しき宝石箱を手に入れるとの思いを込め、『魔導王の宝石箱』という名は如何でしょうか?」
デミウルゴスの言を受けた主は何度か口の中でその名を呟いた後うむ。と言うように大きく頷いた。
「良かろう。では今後、我々の商会は魔導王の宝石箱を名乗ろう」
「ありがとうございます。やはり、アインズ様には何もかもお見通しのようですね。私の無様な思いを見通しこのような報賞を賜り、この上なき幸せにございます」
メガネを外したデミウルゴスは目頭を押さえた。
その瞬間、副料理長も遅ればせながら主の考えに思い至った。
賢知に溢れる主は、デミウルゴスに仕事を与えていないことを気にして、わざわざこの場に足を運び、商会の名前付けという大役を与えに来たのだと。
そして同時にもう一つ気づく。何故主が自分に命じていたドリンクではなくカクテル、つまりは酒を作らせたのかを。
ならばバーのマスターとしてやることは決まっている。
「アインズ様、お待たせいたしました。第六階層で採れたリンゴをベースに作ったカクテルでございます。リンゴがやや酸味の強い出来となっていますので、それを最大限活かすようさっぱりとした口当たりになるようにしました」
カウンターの上にカクテルを差しだし、さりげなくデミウルゴスの前に置かれたカクテルナザリックに目を向けた。
「ん? うむ。ではデミウルゴス、乾杯といこうではないか」
流石は至高なる御方。
ここまで見越しての注文だったとは。
感服しつつ、副料理長は背を向けグラス磨きに戻る。
客が一人ならば話し相手にもなるが、客同士が話しているのならば黒子に徹するのが良いマスターと言うものだ。
「はっ。では何に乾杯いたしますか?」
デミウルゴスの問いに主は僅かに考えるような間を空けた後こう口にした。
「無論、『魔導王の宝石箱』その素晴らしき名が決定したことにだ」
押し殺したような嗚咽が一瞬聞こえたが、それは聞かなかったことにした。
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