第19話 開店、そして
アインズの前に魔導王の宝石箱で働くことになった面子が全員並んでいる。
セバス、シャルティアを筆頭にその後ろにはこの度新たにナザリックに加わった元人間の吸血鬼、ブレイン・アングラウスと店員の纏め役としてツアレが並び、更にその後ろに七人の女が立っている。
これらが店員として働くことになる者達だ。
一度全員眺めてから、アインズのメイド役を兼ねて側に控えているソリュシャンに合図を送る。
「では、至高の御方に忠誠の儀を」
ソリュシャンが口にした瞬間、全員がその場に跪く。
完璧に揃っていると言えるのはセバスとシャルティアだけで残るメンバーはやはり多少動きにばらつきが見える。
特に最近入ったばかりのブレインは周囲の様子を観察しながら、恐る恐る合わせているのが簡単に見て取れた。
そんなブレインにソリュシャン、そしてシャルティアが刺さんばかりの視線を向けたがアインズは軽く手を振ってそれを制した。
今のアインズはブレインの粗相よりこの後の挨拶に気を取られていたためだ。
そもそもこの儀式自体アインズとしてはあまり乗り気ではなかった。
全ての用意が終了し、本日よりいざ開店という段階になって、ソリュシャンの提案で開店前の挨拶を兼ねた忠誠の儀を執り行うという話になったのだが、何を言えばいいのかさっぱり分からなかったのだ。
これは要するに会社の社長が社員達を集めて行う朝礼の挨拶で良いのだろうか。
しかし絶対者であるアインズが、頑張って売り上げを伸ばしましょう。なんて言えるはずもない。
絶対者としての威厳を保ったまま、全員に緊張感を与える言葉を考えなくてはならない。
(もっと早く言ってくれれば考えられたものを)
皆がそれぞれ口にする忠誠の言葉を聞きながらアインズはこの短い時間で全員を納得させられる言葉を必死になって探し続けた。
「アインズ様」
「うむ」
忠誠の儀が全員分終了し、ソリュシャンが声をかけてくる。
アインズは威厳を込めて頷くと、この為だけにわざわざナザリックから運び入れた簡易玉座から立ち上がり、一歩前に出た。
(ええい。もう知るか! ナザリック全軍の前でやるよりはマシだ)
「皆、面を上げよ」
一斉に顔が持ち上がり視線がアインズに突き刺さる。
「皆の働きにより、我ら魔導王の宝石箱はこの地で開店する。言うまでもなくここは我らナザリックの最終目的であるこの世界を手に入れるための礎となる場所、そのためにも……」
そこで一度言葉を切ると、アインズは手に持っていたスタッフ地面に叩きつけ、音を鳴らす。
「魔導王の宝石箱を、いやアインズ・ウール・ゴウンを不変の伝説とせよ!」
結局相応しい言葉が思いつかず以前アインズが皆の前で口にした絶対者らしい文言を繰り返すことにした。
セバス達は当然以前も聞いているが、今回初めて聞くことになる者もいる。
そいつらにナザリックの指標となる指針を厳命する。という名目にすればこれでもそれほど違和感はないはずだ。
「力で、魔法で、人材で。そして商売であっても、経済であっても変わらない。アインズ・ウール・ゴウンこそが最も偉大なものであるということを、生きとし生きる全ての者に知らしめよ!」
前回は本気で口にしていたことだが今回は突然のことであり、代案が思いつかなかったが故の台詞だ。その思惑がばれないように必死に作り上げた覇気を込めた声で言い放つ。声が震えたり掠れたりしなかったのは運が良かった。
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