ハーメルン
サーティ・プラスワン・アイスクリーム
姫様は美しかった。彼は汚かった

 ソーシャルゲーム一年くらいの間でいいから滅びてくれないかな、と少年は思った。
 少年の名は佐藤朔陽(さとう さくひ)。高校三年生。
 彼の幼馴染、若鷺和子(わかさぎ わこ)は引きこもりであった。

 彼は幼馴染をまっとうに社会復帰させたいと考えている。
 そのためにユーザーの時間をお手軽にゴリゴリ削るソーシャルゲームに滅びて欲しかった。
 隙あらばスマホを弄る幼馴染を見るたびに、「バイト中でもスマホいじっちゃいそうだ……」と朔陽は頭を抱えてしまう。
 せめて一年。
 幼馴染を社会復帰させるために、ソシャゲに止まっていてほしいのだ、彼は。
 彼の中におけるソシャゲは、ゴキブリや蚊と同じくらい滅びて欲しいものであった。
 ソシャゲに対して彼自身は恨みも憎しみも無いというのが悩ましい。

「和子ちゃん、準備できた?」

「ま、まだ」

 そんな彼の努力の甲斐あって、なんと和子は今部屋を出て学校へ向かおうとしている。
 本日彼らは春の修学旅行。
 彼の根気強い説得が形を結び、若鷺和子は今日、学校に復帰する勇気を出したのだ。

 彼と彼女は、同じ高校・同じクラスに通う三年生。
 彼らの学校は少し特殊で、一年生の時のクラス分けが三年生になっても継続される、三年間ずっと同じクラスメイトと過ごす高校なのだ。
 少々特殊な所もあるが、それなりに普通な高校であると言える。
 彼女は今日の修学旅行で、学校復帰の再スタートを切ろうとしているらしい。

「君は特例で引きこもりなのに出席日数補填されてるんだから、遅刻はしちゃ駄目だよ」

「うぅ」

「でも大丈夫。遅刻さえしなければ、後はどうやって皆に馴染んでいくかだけだから」

 引きこもりの和子は、旅行の準備ももたもたしていて、話し方もどこか拙い。
 遅刻はしないようにと釘を刺しつつ、それでも急かさず、朔陽は彼女の呼吸に合わせた会話のペースを維持する。
 やがて、準備万端になった和子が部屋から飛び出して来た。

「じゅ、じゅ準備、出来た」

「それじゃあ行こうか」

 若鷺和子の容姿は、人並み以上に優れている部類に入る。
 引きこもっていた内に伸びに伸びていた彼女の髪は、朔陽が無理矢理連れて行った美容院の人がビューティフルに整えてくれたお陰で、綺麗な黒の長髪に生まれ変わっていた。
 身長は150cm前後で、引きこもっていたせいか日に焼けていない白い肌が美しい。
 誰がどう見ようと美人な容姿だ。
 だが朔陽からすれば見慣れた幼馴染の姿でしかなく、彼に言わせればベロリンガの方が性的興奮に値する存在だと言えるだろう。

 対し佐藤朔陽の容姿は平凡だ。
 駅前の二千円で髪を切ってくれるところで「短めにすいてください」と毎回適当な注文してるんだなこいつ、とよく分かる普通の短髪。
 アイドルをやっていたらブサイクだと言われるような、けれど校内であれば上から数えた方が早い程度にはいい顔つき。だが決してイケメンではない顔。
 和子の顔面偏差値が75なら、彼は55といったところか。

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