ハーメルン
サーティ・プラスワン・アイスクリーム
出席番号9番、斬撃エレクトリカルパレード・剣崎敬刀の場合

 ヴァニラ・フレーバーは人が良い。
 が、人が良いだけでなく、策謀も出来る少女だ。
 善意と打算の合間で折り合いを付けられるのが彼女の強みであり、損得勘定で善性を捨てきれないのが彼女の弱さ。
 彼女は地球人のお披露目や、地球人との友好アピールも兼ねて、和子を護衛の一人として連れて国外の会議に出席していた。

 それが、自国に利益をもたらし、朔陽達にも利益をもたらすと信じて。

「ワコ様、今日はありがとうございます」

「構わない」

「悲しい犠牲が生まれてしまいました。でも、結果的に良い方向に向き始めたようです」

 ヴァニラ姫が訪れた会議は、そんなに肩肘張ったものではない。
 要は、"料理の技術交流をしよう"という提案を煮詰めるためのものだった。

 ドライの襲来と大暴れが各国に与えた衝撃、及び影響は予想以上に大きかったようだ。
 ある宮廷料理人が言った。
 今度同じようなことがあれば俺達が自分の手で魔将を撃退できるようにしよう、と。
 ある大衆食堂の男が言った。
 地球の料理にこの世界の料理が負けてると思われちゃ業腹だぜ、と。
 ある閑村の料亭の女が言った。
 できればいつかあの地球の料理人と料理の話がしたいわね、と。

 この会議はヴァニラが見届人となり、魔将に対抗する技術レベルを確保する目的で行われた、料理人主導の会議だ。
 将来的に世界規模の技術交流会になる、正式な技術交流会の雛形と見ても良い。
 ゆえに、本来ならば厳格で真面目な雰囲気があるべきなのだが、何故か途中から暖かで楽しげな空気が広がっていた。
 それは、平民の料理人が会議に混ざっているから、ということだけが理由ではない。

 ある者は、地球の技術を盗もうと目をギラつかせていた。
 ある者は、地球の美味い飯をもっと食べたいと思っていた。
 ある者は、地球の料理を自分の手で作ってみたいと思っていた。
 このみが最後にカレーで見せた『未来』の姿は、彼らの中に地球への興味と、未来へのワクワクした気持ちを呼び覚ましていた様子。

 更には、素晴らしい料理を作ったこのみと、戦慄されるほどの覚悟を見せた朔陽が、彼らの中に『地球人への確かな敬意』を根付かせていた。

「帰りましょう、ワコ様」

 会議が終わり、ヴァニラは和子と伴の者を連れて帰国する。

「あの会議の結果はいい感じ? 姫様」

「ええ、いい感じです」

「お疲れ様。姫様はいつも頑張ってて、すごいと思う」

「……ありがとうございます。その言葉だけで、また明日からも頑張っていけます」

 普段淡々と話し、あまり表情を見せない和子からそんな気遣いを貰えるなんて、ヴァニラは想像もしていなかった。
 普段から和子は朔陽にベッタリで、朔陽ばかりを気にかけているから、なおさらに。
 ちょっと嬉しい気持ちになって、また頑張ろうという気持ちになってしまう。
 こういう情に深いところがあるがために、ヴァニラは人を切り捨てる決断をしないといけない役職に向いていないのだ。長所と短所は表裏一体。

 嬉しそうに王都を歩くヴァニラの手を、和子が掴んで止めた。

「あ、ちょっと待って」

 ガキン、とクナイが石に浅く刺さる音がする。

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