その2
人には個性があるものだ。
好みのエロ本を見つけた時、野口希望なら"Aもん見れたなAカップ"と思うだろう。
井之頭一球なら"Eもん見れたなEカップ"と思うだろう。
戦う者には戦い方の個性があり、嘘つきには虚言の傾向があり、リーダーにはリーダーシップのタイプというものがある。
佐藤朔陽は、周りより少しだけ優しく、少しだけ我慢強く、少しだけ誠実で、少しだけ頑張り屋な身で頑張って、周りを引っ張っていくタイプ。
(あー、しまった。
一球くんと希望くんに疲れてるとこ見せちゃった……
少し休んだしもう大丈夫だと思うけど、今後は気を付けておかないと)
疲れていても、疲れた顔は見せない。
それが上手くリーダーをやるコツの一つだ。
疲れた顔を絶対に出さないともなると悪手だが、疲れた顔を見せる相手と場面くらいは選んだ方がいい。
痩せ我慢がリーダーの資格になる、そんな者も居る。
「ほらよしよし、元気出して和子ちゃん」
「うえっ、えぐっ、ざぐびぃぃぃぃぃぃ」
強い自分を演じなければ、クラスメイトが自分にすがれない。
気丈な自分でなければ、クラスメイトが寄りかかれない。
頼りがいのある自分でなければ、泣き叫ぶ和子が安心して泣きつけない。
号泣する和子の小さな体を抱きしめて、彼女の髪を撫でてやっている朔陽に、少し前まで僅かに見せていた疲れは見て取れなかった。
「よしよし」
小柄でも女性らしい体つきに、黒髪長髪で色白な美人とくれば、その泣き顔だけで興奮する男性は少なくないだろう。
赤くなった泣き顔も、頬を伝う涙も、可愛らしい女性が見せる心の弱さも、男性の庇護欲と恋愛感情を誘うものだ。
ただ、慈しみの心をもって和子に接する朔陽に対しては、それはメスゴジラのフルヌード程度にしか性的感情をかき立てない。
「和子ちゃんは悪くないよ。
だから、誰かの味方をしようとした過去の君まで、否定しないで」
「サクヒ、サクヒ、私っ……!」
「和子ちゃんは悪くない。
敬刀くんも間違ってるわけじゃない。
だから泣かないで。今は辛くても、きっと辛いまま終わることはないから」
「ぐすっ、えうっ……ほんと……?」
「大丈夫、和子ちゃんも敬刀くんもすれ違ってるだけだから。
不安になったら、僕が今言った言葉を信じて欲しい。
でもそのためには、和子ちゃん自身が頑張らないといけない。分かるよね?」
「……うん」
「よしよし、いい子いい子。
僕も手伝うから、頑張ってハッピーエンドで終わらせよう」
「ん……頑張る」
あれだけ手酷く拒絶されてなお、和子はまだ敬刀と向き合おうとしていた。
精神的に弱くても、ハートの芯の部分が強いのか?
朔陽に励まされたら即立ち上がるくらいに単純な性格で、かつ朔陽に依存しているのか?
どちらなのだろうか。
いや、両方だろう。
彼女はしょっちゅう腰が引けている臆病者ではあるが、踏み出すべき時に踏み出さない卑怯者ではない。
そんな彼女が、朔陽は嫌いではなかった。むしろ好きだった。
「あ……サクヒ、伝書鳩が来たよ」
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