ハーメルン
サーティ・プラスワン・アイスクリーム
出席番号5番、月下美人・大沢桜花の場合

 魔将は、基本的に人間に恐れられている。
 不死身の魔将は、即死級の罠を平然と踏み越え、血まみれで人間の攻撃の中を再生しながら突っ切っていき、その豪腕で軍を薙ぎ倒す。
 寄生蟲の群れは人間を操作し、心強い味方だった人間の将軍や英雄を簡単に人間の敵にしてしまい、忠誠心厚い大臣を人知れず裏切り者へと変えてしまう。
 吸血鬼の王は真っ昼間に緑の草原を人の血を真っ赤に染めるという正統派な強さも、夜中に億単位の蚊を敵陣に送り込んで眠れなくするという搦め手も、どちらも使う。
 それぞれに個性がある。
 それぞれに恐ろしさがある。
 フュンフ・ディザスターも、彼だけに固有の理由で、人に恐れられる怪物だった。

 フュンフはよく人をさらう。
 街からこっそりとさらい、戦場で人知れず兵士をさらい、山奥の孤立した村を村ごとさらう。
 そして、さらった人間を使って、実験を行っていた。

「実験一。他者生存・自己生存、優先度実験」

 20人の人間を実験室に入れる。10人だけが生き残り出られるのだ、と告げる。
 そしてあの手この手で戦いを煽り、10人を殺害か自殺に追い込む。
 残った10人を別室で生き残った10人と合わせて、また同じことを繰り返す。

 初めは誰もが抵抗し、反発し、殺し合いを拒絶した。
 泣いて、嘆いて、跪いて、現実から目を逸らして床を濡らし続ける者も少なくなかった。
 だが、それも最初だけのこと。
 食料を与えなかったり、見せしめに一人殺したり、実験室から出さないまま何ヶ月と経過させたりと、様々な煽りを行うことで、人間達は容易に殺し合いを開始した。

 何度か殺し合いをさせてみれば、生き残った者はどんどん殺し合いに慣れていく。
 殺しのハードルが低くなっていく。
 殺人の忌避感が消えていく。

 少女が涙を流すのが、騙し討ちのための演技になった。
 仲間を集めて絆の力で生き残っていた青年は、最初は10人で勝ち抜いていたのに、いつの間にか仲間を集めて仲間を皆殺しにするスタイルを確立していた。
 老婆は、自分の弱々しい姿が殺しのための武器になることに気付いた。
 兵士だった中年は、守るべきものだと思っていた一般人を見て、「この実験に連れて来られるのは一般人が多く俺より弱い」「殺しやすいのは幸運だった」と思うようになっていた、変わり果てた自分の心を自覚した。

 殺し合いという過程を経て、人間の醜さが抽出されていく。

 薬品を蒸留・撹拌・調合する感覚で、フュンフはそれらを研究した。
 無論、主観的な観測だけでは終わらせない。
 部下に人間の細かい挙動や言動、推測レベルではあるが感情の動きもメモさせ、それらを総合的に分析して研究を行う。
 人間に同情して心を病む部下も居たが、フュンフはそういう部下には金を握らせて後方勤務に回し、その部下が復調するまでは代理要員の手配を要請。
 人間の醜い殺し合いを、できる限り客観的に観測できる人員を揃えることにこだわった。

「実験二。特定状況下実験」

 親子・親友・恋人・戦友など、特殊な関係にある人間を一対一で殺し合わせてみる。
 すると、見知らぬ人間よりも強烈な抵抗があり、殺し合わないまま餓死したり、逆に二人で一緒に自殺するパターン等の割合が増えた。
 しからば、人間は何の関係も無い者の命を軽いものに定義するのか、それとも人間は自分が負わされる罪悪感の量で人殺しのボーダーを決めているのか、ここを判断する実験も必要だ、とフュンフは思うようになる。

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