ハーメルン
サーティ・プラスワン・アイスクリーム
その3

 光り輝く聖剣を、朔陽が渾身の力で振り下ろす。

「せいっ!」

 聖剣の切れ味は遺憾なく発揮され、切っ先は信長顔のカエルを両断してみせた。

 空中に残る残光。
 地面に僅かにめり込む切っ先。
 切り裂かれたカエルは少しの間ビクンビクンと動いていたが、やがて煙のように霧散した。

「よし、もう一回!」

 もう一度振る。
 猫型信長に、紙一重で回避された。
 再度振る。
 空飛ぶ鳥型信長に、ひらりと回避された。
 又候(またぞろ)剣を振り上げる。
 小さな虫型信長を狙ったのに潰せなかったのは、虫の方が的確にかわしたからではなく、単純に精神的な動揺から剣筋が乱れたからであった。

「……あれ?」

 聖剣は確かに抜群の切れ味を誇っているのだが、剣を振る速度が遅く、振り方にキレがなく、当てる技術がまるで見られない。
 足捌きも体捌きもなっていない。
 一つ目の動きが二つ目の動き、三つ目の動きと繋がっていく、動きの連続性すらまっとうには見られない。

 振るわれている剣は至高だ。
 そこに異論を挟む余地はない。
 問題なのは、剣を扱う朔陽の技術が極めてウンコであるという点にあった。

「わっ」

 九体の犬型信長が、朔陽に襲いかかる。
 聖剣が無能な主をカバーすべく、主の体を勝手に動かしてでも主を守ろうとするが、主の無能さのせいで上手くいかない。
 瞬間、和子と桜花の視線が交差する。
 思考が伝わる。

「……」
「――」

 二人は頷き、同時に飛び出した。
 それは、二人の息を吸って吐くタイミングにコンマ一秒のズレさえ存在しないほどの連携。
 一弾指(いちだんし)の間に桜花が朔陽をカバーし、和子が朔陽の頭上に飛び上がる。
 そこからは須臾(しゅゆ)の反撃だ。

 朔陽の周囲1m圏内に入った敵を、桜花は瞬く間に掌底で打ち返す。
 和子は朔陽の頭上に滞空した一秒で、四方八方に忍術とクナイをばら撒き、朔陽に攻撃する可能性のある信長を全て潰す。
 一瞬、潰れていく信長に桜花が泣きそうな顔をする。
 その顔を誰にも見せぬまま、一瞬で表情を元に戻した。

「いい腕」

「ありがとうございます、若鷺さん。
 今日は沢山、私のいいところも悪いところも知られてしまったようですね」

「……? 悪いところなんて、どこかあった?
 あ、大沢さんの身の上話とか、聞き流してたっていうわけじゃないよ、ホントだよ」

「……ふふっ。貴女はいい人ですね」

 桜花は自分の生涯を語り、自分の汚点と負け犬の過去を語り終えた気になっていたに違いない。
 だが、彼女を悪いと思った者は誰も居なかった。
 彼女の話を聞いた皆の心には、"友に弱みを打ち明けられた"という想いが宿っている。
 その想いは、彼らの心の中に新たな想いを呼び覚ましていた。

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