ハーメルン
サーティ・プラスワン・アイスクリーム
出席番号7番、恋の終わり・木之森切子

 吊り橋効果というものをご存知だろうか。
 不安や恐怖、興奮や緊張が高まっている時、他人に恋愛感情を抱きやすくなるというものだ。
 なら、元から恋愛感情を持っているものにそれが起きたなら?
 元から好きだった人に、この異世界で優しくされて、感情が爆発してしまったなら?
 そうなった高校生が、思い切った行動に出ても、何もおかしくはない。

「好きです! 付き合ってください!」

 出席番号7番、木之森切子(きのもり きりこ)
 彼女の告白に朔陽は戸惑うも、冷静に思考を回す。
 冷静に回してしまう。
 その時点で『何か』が失格だったことに気付きつつも、もうどうしようもなくなってしまう。

 木之森切子。
 身長197cm、体重238kg。
 同年齢の平均骨密度との比較、250%。
 パンチ力8t、キック力12t、ジャンプひと跳び30m、100m走5.8秒。
 全身を覆う分厚い筋肉は、格闘家として適切な体脂肪率を維持していた。
 体格こそ大きいものの、運動部の男子ほどには身体能力も高くなく、性格も温厚で物静かな女子であると朔陽は認識している。
 必殺技の殺傷力もそう高くはなかったはずだ。

 告白の後の沈黙が、四秒か五秒ほどあっただろうか。
 その僅かな沈黙にすら耐えきれず、切子は逃げ出した。

「……へ、返事は、あとでいいですっ!」

「あ、切子さん!?」

 情けない、と切子は自分を恥じる。
 勇気を出して告白した女子を朔陽が"情けない"だなんて思うはずがないと分かっているのに。
 恥ずかしい、と切子は逃げながら顔を覆う。
 まだ恥になることなど起きていないはずなのに。
 変な奴だと思われてないかな、嫌われてないかな、と思えば、切子の顔は赤くなる。
 そんな風に思うような男なら、初めから好きになっていないと分かっているはずなのに。

 冷静に考える思考と、感情的にありえないことを考える思考がごちゃまぜになり、切子は全力で逃げ出してしまう。
 ウォォォンと鳴く蝶々が、切子の疾走による旋風で吹き飛ばされていた。










 切子の想いは、幼馴染の恋心ほど長くもなければ、異世界に来てから芽生えたインスタントラブでもない。
 意識しだしたのは一年ほど前。
 友人に相談するくらいに明確な恋心となると、二学年時の冬頃になる。
 切子は二学年三学期のある日に、陽光の差す教室で、友人に恋の相談をした。
 メンバーは恋川このみ、セレジア・セーヴィング、島崎詩織の三人のみ。

 呼ばれてもいないのに勝手に混ざろうとした嘘つき寧々は教室から蹴り出された。

「はー、いいんちょさんを、ねえ。
 いや悪くはないんじゃない?
 あたし個人としてはまあ……うーん、まあいいか」

 女子会ということで、お菓子を作って持って来てくれた恋川このみがそう言う。

「ひゃー、日本人は慎み深いと聞いてたんデスが高校生ただれてマースねー……」

 双子アメリカ人留学生の片割れ、セレジア・セーヴィングは紅茶を淹れつつ、何か過剰な方向に想像力を働かせている。

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