ハーメルン
サーティ・プラスワン・アイスクリーム
出席番号7番、恋の終わり・木之森切子


「自分は、恋愛経験皆無の処女ばかりを集めたこの集まりで、生産的な意見は出ないと考える」

 女子会ということで、このみの真似をして血抜きをしたばかりの熊の死体を持って来て、寧々と一緒に一度は蹴り出された詩織が淡々と言う。

「言うてはならんことを……わっはっは、詩織は何かもう、身もふたもないねー」

「少女マンガで日々勉強してマース。大船に乗った気で居てくださいデス」

「泥舟だよ」

 恋愛経験も無い、恋人も居ない、そんなクラスメイト女子の友人三人を集めてどうするのか。
 そう言われても、頬を掻き照れ臭そうに笑う切子は心変わりしない。
 可愛らしい表情の動きと、毛の無いメスゴリラと言うべき肉体の威圧感が、恐るべきミスマッチを奏でていた。

「うん、分かってる。
 でもあてはさ、友達に相談したくて皆を頼ったの。
 有能な人より、信じられる人に助けて欲しかった。
 恋愛を分かってる人じゃなく、あてのことを分かってる人の助言が欲しかったんだ」

 えへへ、と照れる切子を見れば、女子達も皆腹が決まる。

「しゃーない、料理しか知らないあたしだけど、頑張りますか!」

「バスケしか知らないけど尽力はしマス」

「男を狩るにはもしや自分の狩猟技術が一番役に立つのでは?」

 何言ってんだコイツ、という目線が詩織に向けられる。

「……ありがとう」

 切子はとても小さな声で、蚊の鳴くような声で感謝の言葉を口にした。
 それが三人の友人の耳に届いたのは、小さな声でも大きな気持がこもっていたから……かもしれない。

「で、いいんちょさんのどこを好きになったの?」

 このみがちょっとワクワクした顔で問いかける。

「顔デース? それとも何か決定的なイベントとかあったデスか?」

 セレジアはこう言っているが、"いや顔だけで惚させるほど超イケメンってわけでもないな"と心中でとんでもなく酷いことを思っていた。

「……」

 詩織は静かに返答を待つ。



「優しい……というだけで、好きになっちゃいけないのかな?」



 切子の純粋で甘酸っぱい返答は、少女達の胸を打った。
 このみとセレジアは、倒れるように教室の机に突っ伏してしまう。

「少女漫画の主人公かあんたは」
「……少女漫画の主人公デース」

「べ、別にいいんでしょ、優しくされたから好きになったくらい」

「んーいや別にいいんですけどー」

 人間とは、優しくされるだけで恋愛感情を抱くこともある生き物である。
 優しい人というだけで好きになってしまうことがある生き物である。
 このみがあたしはーと反応し、セレジアがミーはーと反応し、詩織が自分はーと反応する。反応は軒並み生暖かい。

「う、そういう反応されるのは予想してたけども。
 そりゃ、今時優しいから好きになったってのはどうかとも思うけど……
 そりゃ、優しいやつなら誰でも良いのかよビッチ! とか言われても仕方ないけど……
 だって、好きになったんだから仕方ないし……
 それが、偽りのないあての気持ちだし……

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