その3
「これは……」
「奴が倒せない量は落とさん。
あくまで奴が余裕を持って倒せる量のサメを落とすようにしておる」
「……何のために?」
「鍛えるためだ。まさか二週間もたずに惨殺される未来が見えるとは思わなかったぞ」
竜王は呆れた顔をしていた。
「未来が見える……?」
「強さのテコ入れというやつだ。
いかんな、未来が見えるとついつい早死にする若者に肩入れしてしまう」
竜王の目には色々なものが見えている。
例えば、あまりにも弱すぎて戦いに巻き込まれてぽっくり逝った誰かさんの未来、とか。
ちょっと鍛えれば、いざという時一歩分多く動ける。
一歩分回避できる距離が増える。
未来に生き残る可能性が生まれる。
竜王の目的は、魔王のペットを利用した朔陽の経験値稼ぎであった。
「忍者と姫も合流したか。なら、落とすサメを少し増やして……」
竜王と切子の眼下で、和子とヴァニラが朔陽に加勢する。
溜め息一つ吐き、竜王は落とすサメの量を増やした。
サメがこの城の守りを加速度的に壊し、どんどん流入量を増やしているように見せかけて、朔陽に楽をさせない状況を維持し続ける。
「地道な努力と積み重ね。
予習と復習、反復練習。
鍛錬と実戦の中で費やした時間こそが、凡夫を戦士に鍛え上げる」
「……」
「まあ、貴様には関係あるまい?
心配は無用だ、今の奴に命の危険はない。
奴がサメの試練を受けているのと同じように、貴様にも越えるべき試練があろう」
竜王が作る"強くなるための試練"でひーこらいってる朔陽達を見下ろしながら、竜王は木之森切子に問いかけた。
切子は朔陽の方を見て、頑張っている朔陽を見て、意を決する。
「……あては」
語られるのは、地図の恋。
地図に恋をして、地図と共に歩いていこうとする恋。
切子は自分が間違えた時、彼が自分に正しい道を示してくれると信じていた。
一緒に幸せを見つけていきたいと、そう思っていた。
「人並みの恋よなあ」
「……う」
「まあよい。余に望みを言うなり、何か訊くなりするがよい」
「え!? いいんですか!?」
「平凡な恋ではあるが、余は好きだぞ」
そして竜王は、平凡でも懸命な恋なら高く評価する男であった。
まさしく王の器である。
「質問するならば一つのみだが、その質問についてならいくら質問しても構わん」
「サービス精神旺盛ですね」
「ふはははは、余のこの言葉の意味に気付けぬのであれば、貴様は不幸になるだろうな」
太っ腹なことだ。
本命の質問が的確なものかどうか、事前に確かめることができるというのだから。
切子は考える。
訊くべきことをどう問うか考え、竜王の意図を考え……そして、気付く。
"不幸になる"と竜王は言った。
幸福になれない、ではなく、不幸になると言った。
そこに引っかかりを覚え、切子は思考を回す。
やがて、背筋が凍りつくような感覚と共に、切子は一つの仮説に辿り着いた。
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