ハーメルン
サーティ・プラスワン・アイスクリーム

 和子は恋愛絡みの様々な話を聞き、ふと思った。

「サクヒ、うちのクラスで恋愛強者は誰かだいたい分かったけど、戦闘強者なら誰?」

 朔陽はほとんど考えることもなく、ノータイムで答える。

「張飛くん」

「誰?」

「不良っぽい人だよ。千ヶ崎張飛(ちがさき ちょうひ)くん」

「ああ、あのドラゴンを殴ってた人」

 和子の頭の中で、名前と顔が一致した。
 耳にやたら沢山ピアスを付け、染めた金髪を逆立てて、やたらと悪い目つきで四方八方を睨んでいた男だった。
 まるで世界中全てが敵に見えているかのように、周囲と協調する気配をまるで見せていなかったので、和子も"マジなヤンキーこわい"と思い覚えていたのである。

「かつて、冷戦があった。僕らの中学時代、学生間であった冷戦だ」

「冷戦……あったっけ?」

「僕らの中学校は関わりが薄かったけど、僕は色々あって県外の学校にも友達が居たからね」

「その県外の友達が巻き込まれたから知ってた、って感じ?」

「そういうこと。
 当時現場になった界隈では、ソビエトと合衆国の冷戦が引き起こされていた」

 教師の親と火星で決別し参戦した曽川、鉄血宰相ビスマルク、キラキラネームでいじられちょっとグレていた江ノ島天使、中国からやって来た元番長董仲穎。
 彼らの頭文字を取り、日本東側の中学生達が連合を組んだのがソビエト連邦。
 メリケンサック装備の不良学生二千人を動員したと言われる日本西側勢力がメリケン合衆国だ。
 不良を中心とした西側不連合が、国会議事堂を占拠しようとしたのに対し、それを不良の喧嘩の枠内に収めるべく東側不良連合が立ち上がった形になる。
 東側不良連合には、特に不良でない者も多くが助力していたそうだ。

 両派の抗争の影響は県外にまで及び、特に宮崎県、群馬県、福島県のきゅうり三大産地において地元ヤクザを巻き込んみ生物兵器まで使用される事態となった。
 これによりその年のきゅうり生産量は50%まで減少し、価格は高騰。
 後の時代にキューリ危機と呼ばれる、不良東西冷戦のピークである。
 国が動く事態になりかけたその時、千ヶ崎張飛は歴史の主舞台へと上がった。

 張飛は単独で一つの勢力として機能し、一週間のみの三国志が開始される。
 朔陽はこれを『張飛が三国志を始め、張飛が三国志を終わらせた』と表現した。

 西側不良をピンに見立て、車を投げてのボーリング。
 西側不良を百人以上積み上げてのジェンガの作成。
 西側不良を道頓堀に放り込み、道頓堀全てを堰き止める。
 当時の西側不良を全滅させた張飛の武勇伝は枚挙にいとまがないが、所詮は不良界隈の話だ。
 不良は誰もが張飛のことを知っているが、不良でないものはそうでもない。

 不良東西冷戦はソビエトの勝利に終わり、日本の民主主義は守られたのだった。

「彼の功績はとても大きかった。
 でも、東側の不良勢力はあまりにも無事過ぎたんだ。
 東側の不良達は東京になだれ込み、東京不良戦国時代が始まった。
 23区に23の不良勢力が出来、皆が覇を唱え始めたんだよ。

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