出席番号2番、野球部キャプテン・井之頭一球の場合
ここはダッツハーゲン王国。
フレーバー王家によって治められている、正しい意味での人類勢力圏最北端の国にして、魔族の勢力圏最南端に隣接する最前線の国だ。
雪国の多い北方の土地に住まう魔族は、豊かな土地の豊かな実りを奪うため、南に住まう人類の土地を奪うべく日々攻め込んでいる。
その先駆けこそが、魔王率いる魔王軍であった。
人類と魔族が対立しているこの大陸はユキミ大陸と呼ばれ、空から俯瞰して見ると円形の大陸が二つ縦にくっついたような形をしている。
北の円が魔族領、南の円が人類領だ。
かといって、人類魔族共に一枚岩というわけでもない。
人類圏の中にはエルフやオークの国もあり、中立の魔族の国もある。
南方の人類国家に戦争で負け滅ぼされた国家の末裔が、魔族と手を組み北側で独立国家を立ち上げ、現在の魔族と協力関係になっているというものもある。
魔族にも複数の国家があり、それを魔王がまとめているワントップ体制であったり。
人類側は全部の国が絶妙に足を引っ張りあった結果、全部の国の代表による合議制であったり。
魔族の国と勝手に不可侵条約を結んだ人類の国があったり。
ともかく、全体的にごちゃごちゃとした、どこにでもありそうな普通の国家間関係があった。
そして全体で見れば、人類圏は崩壊寸前であると言える。
魔王軍が優勢過ぎるのだ。
戦争が終わればどんな形であれ、『人の世界』は消えてなくなるだろう。
人類という種が残るかどうかさえも怪しい。
現魔王が、そもそも人類種を残す意義を感じていないからだ。
さて、そんなユキミ大陸のダッツハーゲン王国に飛ばされた佐藤朔陽達だが。
「ふぅ……とりあえず、僕らのクラスの生活基盤は確立出来たと見ていいかな」
異世界転移から一ヶ月。
彼らはこの世界にすっかり適応し、日々をエンジョイしていた。
「サクヒ、サクヒ、ソシャゲができない……イベントの日なのに……」
「諦めようよ和子ちゃん」
ここは、王城近くに用意された地球人用の邸宅、その一室。
より正確に言うのであれば、朔陽専用の事務室であった。
ソシャゲができず、行動力も消費できない現状に、若鷺和子が死に体を晒す。
朔陽が各種書類を処理している最中の机に乗っかって来る彼女の表情は死に、体は脱力、和子のそこそこ大きな胸は机でむにゅりと潰れている。
だが朔陽は机の上のゴミをどけるように、彼女の体を押しのけた。
「帰るまでソシャゲは無理だってば。これを機に卒業しなよ」
「うぅ、やっぱそうするしかないのかな……」
押しのけられた和子は、体をふらつかせもせず、綺麗な倒れ方で近場のソファーに倒れ込む。
なんだかんだ、彼女のバランス感覚は凄まじい。
朔陽は昔、公園で二人で遊んでいた時、平均台から足を滑らせて落ちた時のことを思い出した。
平均台で股間を打った朔陽は、一瞬神の声を聞いた。
「お主の股間のマリー・チンポワネットは、フランス革命によりギロチンポされてしまったのじゃ。ギロチン対象は人の頭でなく亀の頭じゃが」というシモネタに走った品の無い声。
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