ハーメルン
サーティ・プラスワン・アイスクリーム
その2

 鉄球が潰した二人の体が、煙となって霧散する。
 煙の中には緑の葉っぱが一枚、ひらりひらりと待っていた。
 最新鋭の物理学を内包するニンジャ・テクノロジーを導入した、若鷺和子の『変わり身の術』の効果であった。

「間一髪」

「和子ちゃん!」

 朔陽と一球の二人を抱え、小柄な和子が王都を駆ける。
 変わり身に直撃した鉄球は王都に巨大な破壊の爪痕を残していた。

(大きく避けるしかない)

 地面に当たっても、建物に当たっても、鉄球は全てを粉砕し、人間を殺せる瓦礫を広範囲に撒き散らすことが目に見えていた。
 和子は攻撃範囲を膨大と推定。
 そして、全力で走る。
 出来る限り人が少ない方向へ。
 巨人神装兵は変わらず和子達を――正確には和子が抱えた一球を――見ている。
 睨みつけたまま視線を外さない。
 和子がどんなに速く動こうとも、巨人は常に対象の人間の姿を捉えたままだ。

 神に逆らう反神タイガースはこの世界には存在しない。
 プロ野球選手も然りだ。
 投技を極めたピッチャーを正当な手段で打倒できるのは、打技を極めたバッターのみ。
 野球部員がクラスに一人しか居ない以上、野球でかの巨人を倒すことができるのは、この異世界に井之頭一球ただ一人なのである。
 巨人が警戒するのも、当然であった。

(朔陽だけ助けるなら、井之頭君を囮に置いてって私と朔陽だけで逃げるのが一番……
 でも、そうしたら朔陽はきっと怒る。
 それに何より、私自身が、クラスメイトを見捨てて逃げたくないと思ってる)

 巨人神装兵は腰に吊った鋼鉄の野球ボールに手をかけるが、鉄球は握らず、その辺りの地面に手を突っ込んで1mほどの直径の小石(巨大)を指でつまみ取った。
 どうやら鉄球を温存し、石投げをしようとしているようだ。
 一試合ごとの球数を抑えるのはピッチャーの基本。
 でなければピッチャーの肩は簡単に壊れてしまうからだ。
 異世界で鉄球が補給できない以上、鉄球を温存するのは当然の思考と言えよう。

 かくして巨人の手より幾度となく投石が放たれる。
 スライダー、シュート、カーブ、シンカー、フォーク、ジャイロと各種変化球系の回転をかけられた無数の石が、朔陽と一球を抱えた和子に向かって飛翔した。

 軽やかに、華やかに、艶やかに。
 美しい蝶が空を舞うように和子は飛礫(つぶて)を避けていく。
 王都の遥か彼方から投石する巨人と、人気のない区画でそれを回避するクノイチの攻防は王都の皆が目にする事態となり、騒ぎは徐々に大きくなっていく。
 異世界の一般市民は逃げ惑い、地球の一般学生達は仲間を助けるべく走った。

「このまま……」

 巨人は神のごとく振る舞い、石を投げる。
 ただそれだけで、王都が目に見えて削れていく。
 和子が人の居ない方に移動していなければ、とっくのとうに死人が出ていただろう。
 だがこの攻撃ペースなら、自分程度でも余裕でかわせるだろうと、和子はたかをくくっていた。悪い言い方をするのであれば、油断していた。
 朔陽が叫ぶ。

「和子ちゃん! 遠くで何か光った!」

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