ハーメルン
サーティ・プラスワン・アイスクリーム
その4

 黒い泥、草木の断片、敵と自分の血にまみれながらも、ブリュレは駆ける。
 戦闘中に死ぬ気で捻出した時間に、風の上級攻撃魔術の詠唱を終えた。
 詠唱終了と同時に、眼前のストリゴイに叩き込む。

「『ウィズレイド』ッ!」

「グギャアッ!」

 鋭い風の刃だけで構成される乱気流の魔術。
 ミキサーの中に入れられたクッキーのようにストリゴイの肉体が切り刻まれ、ブリュレ最強の風魔法はそのまま一直線にツヴァイに向かう。
 敵を一体仕留めつつ、敵の体を使って魔法の初動を隠そうという小細工か。
 されどもツヴァイは、余裕をもって火の中級魔術を発動する。

「『フレルマ』」

 火が風を焼き尽くし、風の刃が一つだけそり立つ火の壁を突破する。
 風の刃は吸血鬼の頬を切り裂くが、吸血鬼はニタリと笑って頬の傷を指でなぞった。
 人がまばたきを一度する程度の時間で、頬の傷は完治する。
 ストリゴイと比べても非常に高い再生能力は、小さな傷の積み重ねすら許さない。

 結果だけ見れば、風の上級魔術を火の中級魔術でほぼ相殺された形だ。
 それがそっくりそのまま、この二人の魔術技量と魔力量の差を表している。

「いい眼だ。死を覚悟している。犬畜生にしては悪くない」

 ツヴァイが見下しながらもその健闘を称えれば。

「十年で尽きる命が、百年を生きる命を守る。
 それだけで価値があろう。
 それだけで意味があろう。
 それだけで未来があろう。
 彼らの明日を守れるのなら、この命を賭けるに値するで御座ろうよ!」

 ブリュレは喜ぶこともなく、ツヴァイに猛然と飛びかかる。
 急所を堅固に守るツヴァイの手足をすれ違いざまに爪で抉るが、その傷も一秒後には全快してしまっていた。

「悪くはない、が」

 カウンターとばかりに、ツヴァイのゆったりとした予備動作から神速の腕振りが放たれる。
 直接命中はしなかったが、腕振りだけで発せられた衝撃波が、ブリュレの体を強烈に打ち据えていた。
 高層ビルの上から飛び降りて水面に叩きつけられるような、体の一面を叩きつつも全身に響く衝撃ダメージ。ブリュレは吹き飛ばされ、転がされてしまう。

「ぐっ……!」

「貴様の種族で最強を名乗れるほどではないな。
 この程度であれば、百年前に戦った銀狼の方がまだ強かった」

 しまいには長命種特有の思い出話で、同族と比較され罵倒されるという始末。
 白狼の爪も、牙も、吸血鬼の王には届いてはいる。
 だが肉を敵に切らせることを躊躇わず、重傷以外の傷はすぐ治ってしまうツヴァイが相手では、決定打が足りない。
 せめて、首を食い千切るくらいの決定打が欲しい。

 一瞬飛びかけたブリュレの意識に、朔陽の言葉が蘇る。

―――このみさんと寧々さんをお願い。できれば極力あの二人の傍に居て欲しい
―――……すみません、弱くて。ご迷惑……おかけします。皆を、お願い、します

 彼の願いは、一貫していた。
 戦えない仲間を守って欲しいと、一貫して言っていた。
 守って欲しい『誰か』の中に、朔陽は自分を入れていなかった。
 そんな彼に、ブリュレは誓いを捧げたのだ。

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