ハーメルン
サーティ・プラスワン・アイスクリーム
出席番号10番、料理の鉄人・恋川このみの場合

 クーリッシュ村はお礼にと、いくつかの食材を持たせて朔陽達を帰してくれた。
 後日また食材を持って来てくれるとも言っていたが、友人が森を全焼させた負い目のある朔陽からすれば申し訳無い気持ちが膨らむばかりである。
 王都に帰還してすぐに、朔陽はパンプキン卿への報告に向かう。

「報告ご苦労。それと、お疲れ様だ。君達は私の期待以上の報告を持って帰って来てくれた」

 最強の騎士様はにこやかな顔で微笑んでいて、それが逆に不安を煽っていた。
 渡された依頼達成報酬の桁が、朔陽の予想より桁二つは多かったことも不安を煽る。
 これからどんな無茶振りされるんだ、と朔陽の背筋に悪寒が走った。
 まあ、それは置いておいて。
 帰りにヴルコラクに襲われなかったとはいえ、そこそこに時間のかかる帰り道を越えて、今はこのみ特製の晩飯タイムであった。

「はい晩飯お待ちっ!」

 焼いた干し魚に、味噌汁に、小松菜っぽいお惣菜に、茶碗の白米。
 一見して日本人の口に馴染みのある和食に見えるが、その実全くの別物だ。
 醤油はこのみが発酵させ作った、この世界の魚を使った魚醤。
 味噌は似ても似つかない調合調味料、味噌汁のワカメは海草ですらない路地野菜。
 干し魚に至っては、裏返して見てみると、川魚のくせに目が十六個くらいある。
 白米は日本とほぼ同じものであるせいで、逆に白米の方が浮いていた。

 唯一の救いは、恋川このみの抜群の料理技術のおかげで、『ちょっと味の違う和食』程度の感覚で食べられるものになっているということか。

「うーん不思議なんだけど美味しい味」

 和子は目の前の変形型和食を幸せそうな顔でパクついていく。

「ちょっとー寧々さんが食べるにゃあ塩味濃いよー」

「あらそう? じゃあ口開けて、醤油直接喉にぶち込んであげる」

「嘘です嘘嘘! ウチ嘘つきですんません!」

 寧々はいつものノリでこのみにしばかれかけている。

「実際本物の材料使えない時点でがんもどきみたいなものなのよ。
 何せ味とか食感とか近付けてるだけだからね、わっはっはっはっは」

「またまたご謙遜を。とても美味しいよ、このみさん」

 朔陽はシンプルに感想を言って、このみの表情をほころばせていた。
 このみが髪に付けているこがね色のヘアピンも、彼女の明るい笑顔の前では輝きも霞んで見えるというもの。
 平凡な男子の平凡な恋心は、こういうとびっきりに明るい笑顔に呼び覚まされることが多いのが困りものだ。

「はぁー」

「? 寧々さんどうかした? 僕が何かした?」

「いやそういうのじゃなくてさー。
 地球に帰ったら受験もあるんだよなー、やんなっちゃうなー、って思って」

「……ああ、そういう?」

 この世界で魔王を倒して終わりではなく、この世界から元の世界に帰って終わりでもなく。
 彼らにはその後受験勉強や就職活動が待っている。
 何せ彼らは高三だ。
 遊ぶことや色恋のことばかり考えてもいられない。
 しかも受験や就職がゴールですらなく、むしろ人生は定職に就いてからの方が長い。

 彼らのゴールは、ずっとずっと先にあるのだ。

「そういえば寧々さん、君この前の模試で第一志望D判定だったよね」

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/12

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析