出席番号10番、料理の鉄人・恋川このみの場合
「ギクゥ」
「どうする? 深淵ゼミ続ける? それとも塾行く?」
「……ぜ、前回のテストは諸事情あって手を抜いてただけだしウチ」
「そうなの? それならまあいいけど。
困ってるなら僕とかクラスの何人かが行ってる塾とか紹介しようと思ったのに」
「その塾について詳しく」
テストの点数は嘘で騙されてはくれません、という悲しい現実。
強がりの嘘も既に悲しい響きしかない。
寧々を戦闘で助けてくれたブリュレはもう居ない。元の職場に帰ってしまった。元の世界に帰った後の寧々には、学力で助けてくれる友人も必要そうだ。
「俺フランス語必死に勉強するわ。駅前で迷子になってるフランス美少女とフラグ立てる可能性あるかもしれないし」とバカ丸出しでフランス語を習得したクラスメイトも居る。
「教科書流し読みすれば満点取れる」と言っている天才も居る。
「興味あることしか勉強したくない」という者も居る。
「ヤンマガにスモーキングって漫画あったんだけどさ。相撲キングだから稀勢の里の話かと思ったら違った。やっぱ日本教育の英語とか役に立たねーわ、学ぶ意味ねーわ」と言う者も居る。
十人十色のクラスメイトだが、できれば全員受験と就職に成功して欲しいと、朔陽は内心で願っていた。
「そういえば佐藤君さ、この期間に手空いてる?」
和子におかわりのご飯を渡しているこのみが、カレンダー(異世界生まれ)の一部の期間を指差して問いかける。
「この時期に全一(ユキミ大陸全料理人一位決定戦)があるわけでさ。
参加者は一人助手を登録して置けるんだけど、名前貸してくれないかな?」
ユキミ大陸全料理人一位決定戦。
大陸全土から最高の料理人が集まり、最も優れた料理人を決めるというダッツハーゲン王国主催の大イベントだ。
地球における料理大会とは違い、国のバックアップを受けた各国最高の料理人が争う、平和な国家間代理戦争の意味合いも強い。
そのため毎年のようにどこかの王家お抱えの料理人が優勝していた。
だが栄光を夢見て市井から参加する者も多く、極めた格闘技で肉を殴り柔らかくする男や、究極の料理魔法を探求する女魔法使いが参加したこともある。
それに、魔王軍の影響もある。
魔王軍が国を滅ぼしてくれたり料理人を殺してくれたりすることが多いので、去年の優勝者が今年は死んでましたということが度々起こるのである。
それなら優勝の座を一部の人間が独占することもない。
世紀末感が凄まじいが、それでも優勝を貪欲に狙う料理人達のバイタリティは、尋常でないくらいに高かった。
そしてそこに参加し優勝を狙おうとするほどに、料理部のこのみのバイタリティも高かった。
「あ、もちろんあたしは基本一人でやるよ。応援だけしてくれればいいから!」
「それ僕いる? そりゃ、名前貸しにしても料理できない人よりはマシかもしれないけど」
朔陽は観客席で応援しているだけでいいという。
このみが欲しがっているのはいざという時に助けてくれる助手なのか、それとも観客席から応援してくれる友人なのか。
あるいは両方かもしれない。
「いざという時のため、いざという時のためだから」
「ま、いいよ。特に緊急の用事があるわけでもないしね」
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