ハーメルン
サーティ・プラスワン・アイスクリーム
その2

 料理とは本来勝負するものではない。
 ならば、勝敗は何が決めるのか?
 得点でもいい。工夫の量でもいい。使われた技術の格差もでもいい。
 勝者には、勝者となったという結果に相応しい理屈の証明が必要となる。





 夢を見た。
 椅子に腰掛け、微睡みながら見る、うたた寝のような夢。
 朔陽は夢を見ていた。
 修学旅行の少し前に、このみと朔陽で話した時の夢を。

「よーっす」

「よーっす」

 朝練が始まる時間帯と、朝のHRが始まる時間帯の狭間。大体朝の六時半頃。
 学生達が昼間よりも少なく、学生達が昼間よりも活発なその時間帯に、朔陽とこのみは家庭科室で駄弁っていた。
 朔陽は椅子の背もたれに腹を預け、前後逆に座っている。
 このみは山積みになった本を片っ端から読んで参考にしながら、まな板の上の鳥に包丁を入れている。

「さっき井之頭といいんちょさん話してたけど、何話してたの?」

(じょ)と読めば所ジョージも次代のジョジョに成れるな、みたいな話してたね」

「男子はそういう話好きだねー」

 料理人にはいくつかのタイプが有る。
 このみはカリフォルニアロールや焼肉寿司といった斬新なものとは縁遠く、様々な調理法を学びつつ、それらを取捨選択して整合性のある形に纏めるタイプ。
 過去へのリスペクトを忘れない若人。
 洗練された調理技術を継承する料理人。
 彼女の実家がレストランであることも相まって、彼女は十数年に渡って知識と経験を積み上げ、この歳でプロとして料理を振る舞うに相応しい実力を備えた、勉強家な調理者であった。

 朔陽は積み上げられた本を見て、人知れず感嘆の息を吐く。

「ミネルヴァの(ふくろう)は迫り来る黄昏に飛び立つ、か」

「日本語喋りなよいいんちょさん」

「日本語喋ってるんだけど……」

「日本人に分からないなら日本語じゃないから」

 哲学者は予言者ではないため未来は見えない。
 だから哲学者が語ることはいつだって、物事の終わり際における、過去の総まとめである。
 『ミネルヴァの(ふくろう)は迫り来る黄昏に飛び立つ』とはそういう意味の言葉だ。
 実に分かりにくい。
 これは分かり辛い話をした朔陽が悪い。

「っていう意味」

「へー」

「過去の料理の歴史を吸収して纏めるこのみさんが、なんだかそんな風に見えたんだ。あと」

 朔陽は蛇口の下に転がっている、斬首された(ふくろう)の頭を見る。

「……フクロウも、今ここで捌かれてるし」

「許可貰ってここで調理してるけど、あんま食材には向かないねこれ」

「ひどい」

 食肉としてメジャーなものにはそれなりに理由があって、食肉としてメジャーになれないものにはそれなりに理由がある。

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/16

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析