15 幕間、流れは途絶える事無く
ダグバが死んだ。
いや、万が一の可能性として残された下半身から復活する可能性もあったのだが、奇妙な確信がある。
ン・ダグバ・ゼバは死んだのだ。
例え、あの場で復活する事ができたとして。
決してそれは選ばれなかったのだろう。
相手を殺して勝つ。
負ければ死ぬ。
俺がそう望んで。
奴もまたそう望んだ。
完全な決着。
「……」
目を開けると、白い肌、白い髪。
細められた赤い瞳があった。
優しげな顔だ。
ぼうっとしてるか、歯をむき出しにした子供のような笑顔ばかりが印象に残っているが、こういう柔らかい表情もできるらしい。
横向きに見える優しげな笑顔に、意識せず言葉が口からこぼれた。
「ただいま」
『おあえい』
視界が暗くなる。
前屈みになったジルに頭を抱えられているらしい。
慎ましやか……というには、些か良好に発達した柔らかな双丘が顔面に押し付けられ、膝枕をされていたのだなぁ、と理解が及ぶ。
息を大きく吸い込むと、嗅ぎ慣れたこいつの匂い。
使っている石鹸は異なれど、浸かる湯船は同じなのだ。
匂いが混ざるのは仕方のない事だろう。
しかし、それでもこいつからは自分にはない、元の種族を考えれば似つかわしくないと言わざるを得ない心が安らぐ匂いを感じる。
帰ってきた。
勿論、当初の予定では余裕で勝って帰ってくる予定だったのだけど。
予定が崩れて、想定よりも苦戦して。
それでも、帰ってきた。
これから、まだまだ続けていかなければならないのだけれど。
それでも、最初の山場を乗り越えた事に安堵を覚える。
……いや、待て。
帰ってきたって、何処にだ。
俺はあの九郎ヶ岳で意識を失って、ギリギリのところで五代さんに抱えられて……。
その場で目覚めた訳ではないはずだ。
あの日、東京に無数の白い未確認が現れた、というニュースを聞き、流石に一度東京にジルを連れ出す言い訳が思いつかず、自宅に置いてきた。
理想はジルを東京の父さんのアパートに預けてから長野にマシントルネイダーで向かうことだったのだが……。
ジルがあの時点で自宅から長野まで移動する手段は無い。
ぐい、と、手で押して伸し掛かっていたジルの上半身をどけて起き上がる。
周囲は見慣れた木々の中。
稀に魔化魍が現れるものの、沢もありキャンプなどで人が訪れる場合もまぁまぁある地元の隠れた癒やしスポットだ。
最近は熊などの目撃情報があったりなかったりするのでそれほど人の入りは良くないが、お蔭で鍛錬を積む場所の一つとして重宝していた。
ベンチ代わりにしていた倒木の上に寝かせられていたらしい。
「ジル、俺はどうやってここまで来た。お前はなんでここに居る」
俺の問に、ジルはしばし考え、口を開こうとしてやめ、立ち上がり、なにやらウネウネと怪しい踊りを……あ、ジェスチャーか。
わたし、一人で、散歩に来たら。
空から、でかい……長い? 手首クイッ……バイクが。
だらけた猫……倒れた? 俺が、落ちてきた。
ふむ。
こいつの証言を信じるのなら、どうやら朝からゆっくりと休憩を挟みながらいつもの散歩コースを歩いていたら、折り返し地点のこの森の中にマシントルネイダーが降りてきて、そこから意識を失った俺が転げ落ちてきた、らしい。
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