ハーメルン
ブレイブウィッチーズ 星降る夜に
第4話 果てぬ痛み 中編

 基地の入り口近く、エンジンのかかった車をよそに、最後の挨拶を交わす。そこに孝美の姿は無かったが、ひかりは内心少しほっとしていた。どんな言葉を交わして良いかもわからなかったから。

「ほんとにスオムスに行っちゃうのかよ、ひかり……」
「えへへ……そうですね」

 名残惜しそうにするニパだったが、今更どうにかなるものではない。 
 ひかりは申し訳なさそうに微笑む。
 彼女の祖国だというのに、ここからもそんなに離れていないのに、まるでどこか遠い国に行ってしまうように言うものだから……なんだか、言葉が出なかった。

「あっちに行っても、ユニット壊しちゃ駄目よ」
「はい、正座させられないように気をつけます」

 心配そうに言うサーシャ。
 ひかりはそれを拭うように意気込んで言葉を返したつもりだった。
 だったのだが、それが余計だったみたいでサーシャはむしろ悲痛そうな表情を見せる。

「ほんとうにひかりさんは、毎回のように壊してたんだから。ほんとうに心の底から気をつけないと駄目よ。あなたが此処に来てから壊したユニットの数、覚えている……? 七回……七回、七回って言うとね。一般的なウィッチが一年の内にストライカーの不調を訴える数字と同じなの。それを三ヶ月でって言うんだから、私ほんとうに心配で……」
「サーシャさん……あはは」

 マシンガンのように飛んでくる言葉。
 正座なんかしていないのにしているような気分だった。

「これ、お弁当よ」
「飲み物も……車の中でどうぞ」
「下原さん……ジョゼさん……お世話になりました」

 未だ止まらないサーシャをよそに、定子とジョゼが弁当を持たせてくれる。
 もう定子の料理が食べれないのかと思うとひかりは気が重かったが、今日一日でもう一度食べれるならそれ以上のことはない。ありがたく頂いておくとしよう。

「ひかりさん、あなたの今日までの日々は、無駄じゃなかったわ。私が保証してあげる」
「ロスマン先生……」
「昨日の動き、なかなか良かったわよ。あっちでも同じようにがんばれたのなら……また、ここに戻ってこられるかもしれないわね」
「……ありがとうございます!」

 そう言って激励してくれるのはエディータ。
 きっとそれは、一番欲しかった言葉。
 全てが終わってからもらえたなんて……皮肉だけど、見送りの餞別としては最上のものだろう。
 例えそこにおべっかが入っていたとしても、それはそれで構わなかった。

「……ひかりちゃん?」

 そして、思い思いの言葉を交わしあった後、ひかりが車に乗り込もうとすると、切羽詰まったような表情をしたヴァルトルートがひかりに声をかける。
「……クルピンスキーさん」
「やっぱり、これはひかりちゃんが持ってたほうがいいよ」
「これは……」

 ヴァルトルートが、ひかりに何かを手渡す。
 解放者(リベレーター)の名を冠した、拳大くらいの大きさの拳銃だった。
 持ち手のところが少し歪んでいる。
 ひかりが此処の部隊に来てからも印象深い物事の一つだ。
 エイラとサーニャが年末持ってきた補給物資の中に紛れ込んでいたもの。それを欲しがったひかりに、ヴァルトルートが「お守りだ」とおふざけで嘘を教え込んだのだ。それを信じ込んだひかりは、弾除けだと言って一人大型ネウロイと相対するヴァルトルートにそれを渡した。

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