ハーメルン
ブレイブウィッチーズ 星降る夜に
第5話 ■■一閃 中編

「――ッ…!?」

 吹き飛ばされるように、切り替わる。
 夢から覚めるような確かさがあって、眠りに入る時のような微睡みでもあった。
 白い世界。
 自分の身体以外なにもない。
 手を開いたり握ったりしてみる。
 感覚は確かだ。こんな鮮明な夢など在りはしない。
 けれど、こんな場所に心当たりがなさすぎて戸惑う。

「……ここは……?」

 必死に記憶を手繰り寄せて考える。
 先程までわたしは、何を……

「“グリゴーリ”に触れて、それから……」

 それから、気付いたら“こう”なっていた。
 気付いていないだけで、反撃でも喰らったのだろうか?
 それで死んでしまったから、こうしてわけのわからない世界に着ている。
 だってこんな、何もない世界は、
 ――まるで、あの世みたいで。

「は、はは……」

 そんなありえない妄想に身を窶して、自嘲で笑えてくるほど、わけがわからなかった。
 しかし、そんな唐突さの中で、

「よう」
「――っ!!」

 声が響く。真正面から響くその声に、ひかりは顔を上げられないではいなかった。そうして、漸く自分がずっと俯いていたことに気付く。
 けれどそんなことすらどうでもよくなるほどに、
 その声は、
 愛おしくて。
 欲しかったもので。
 けれど二度ともう届かないもので。
 ああ。もしかして、ほんとうに死んでしまったのだろうか?
 だって、こんな、
 ありえない妄想が形になった、みたいな……

「……その様子だと、俺達は失敗したみてえだな」

 気安く話しかけてくるのは少し舌っ足らずな少女の声。
 それに違わない小さな身体は、白い世界の中、少女にしては少々だらしない風貌で座り込んでいた。
 そして白いリボンを左腕にくくりつけ、マフラーを巻いたひかりの姿は、彼女に全てを伝えるにはうってつけだった。

「か……んの、さ」

 喉に何かが詰まったように、うまく声が出ない。思わずむせて、彼女に笑われた。
 そんなやり取りですら懐かしくて、夢みたいで、ありえなくて、涙が出そうになる。

「なんだよ。そんな幽霊でも見たような顔して」
「なんだ……って……」

 だって、目の前の彼女は、あの日居なくなった管野直枝そのもので。
 だらしない格好で座るのも、宿った不敵な表情も、その声も。
 何もかも、あの日、最後に見た姿と変わりなくて。

「管野さ……かんの、さん……」

 ふらふらと、何もないのに転びそうになりながら、彼女の下まで歩いていく。
 嘘みたいだったから、確かめたかった。
 眼の前の彼女が幻影でも、何者でも、なんでもよかった。
 そして直枝の前にへたりこむように座り込んで、おずおずと手を伸ばす。
 肩に、触れた。
 温度が、あった。
 かかった髪の毛がさらりと手袋越しに甲を撫ぜた。

「管野さん……なん、で……」
「俺は――名残みたいなものだ。いや、“残滓”というのが的確か」

 それが確認作業だとわかっていたから、直枝は言う。
 名残……残滓?
 ひかりは戸惑う。
 しかし、
 雰囲気も、

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