ハーメルン
ブレイブウィッチーズ 星降る夜に
第5話 未来一閃 後編

 夢から覚めるように、意識が戻る。
 戻って、最初に感じたのは喪失感だった。
 叩きつけるようにして押し戻された現実に、吐き気を催す。
 ふらついて、飛び退くように“グリゴーリ”から一歩後ずさる。
 瞬間、先程までひかりが居た場所を熱線が焼き払った。
 眼の前で迸るそれを見て、これに飛び込んでしまおうか、と本気の本気で思う。
 残されたものはもう、
 それくらいしか。
 それくらいしか。
 ああ。
 ああ、ああ、ああ、ああ……!
 でも、でも。
 そんな簡単なことすら戸惑って、出来ないで、呆けているうちに熱線は途絶える。触手のように伸びる砲門がこちらをじっと見つめていた。
 反射的に右手を伸ばす。
 展開されたシールドに放たれた閃光が遮られて、高い音を奏でた。
 ひかりの脆弱なそれでは一秒もせめぎ合っていられなくて、弾かれる。
 ストライカーユニットに魔法力を回すのも惜しくて、このまま墜落してしまおうと思う。
 “グリゴーリ”はどうせ誰かが倒してくれるだろう。そうでなくても、勝手に滅ぶのだという。
 ならば変わらない。
 何も、何も……

 ほんとうのほんとうに、そう思うのに。

 受け取った、彼女の言葉がそれを否定する。
 限界寸前の途絶えそうな身体でも、折れまくって歪になった心でも、届いてみせるよう、意地を張れと。

 この“間違い”を、この“中途半端”を、確かな形で終わらせられるのは。
 雁淵孝美の妹であり、管野直枝の相棒であった、雁淵ひかりだけなのだと。

 強く。
 とても、強く。
 痛みさえ伴うほどに。
 そう、叫んでいた。
 だから、だから、だから、
 だから――――

「ぁ……あ……!」

 空を切るように、もがく。
 手繰り寄せるように両手を伸ばして、墜落しようとする重力に抵抗する。
 その姿は端から見ればみっともないことこの上なかったが、そんなの構わなかった。
 ストライカーユニット――チドリも、ぶすぶすと音を立ててぐずっている。先程食らった攻撃で、ガタがきていたそれに拍車がかかったのだろう。
 彼女もずっと、翼のないひかりの代わりに飛び続けてきてくれた。
 相当に無茶を言ってきた。
 でも、これで最後だ。これっきりでいい。

 今一度、足元に力を乗せて。
 空気力学を、世界に、全てへ、
 届くように――今。

 ――大きく、羽ばたけ!

「――ッッッッッああああああああああああああァアアアアアアアアアアアッッッッッッッ!!!!」

 めちゃくちゃに叫びながら、暗闇を、雲を、突っ切る。
 何を思っているのか、何を考えているのか、何を、吐き出したいのか。
 そんなことさえわからずに、思いのままに吠えた。
 喉の奥が焼け付く。
 でも今は、それすら腑に落ちるような感覚があった。
 どこまでも飛ぶ。
 そして、どこまで行っただろうか。
 視界が急速に晴れる。
 その中で一度、
 空を。

 ――空を、仰ぎ見た。

 落ちゆく太陽に照らされ燃えている空は、
 赤く、とても紅く、
 ただ、ただ緋く。
 その奥に、黒い夜が炭のように炎を蝕んでいくのが見えた。

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