ハーメルン
ブレイブウィッチーズ 星降る夜に
エピローグ 星降る夜に

 あの色を、覚えている。
 全てを見通す緋と、全てを貫く蒼。
 その手で触れてもらえること、その声で語りかけてもらえること、
 その背を、追っていられること。
 それだけが、信じられるものだった。
 世界は汚れていて、悲しくて、残酷な世界で。
 正解なんて何処にもなくて、だから間違えて、間違えたくないから間違えて。
 得たものから順にこの手をすり抜けていって、最期には全て取り上げられる。

 だからきっと、生きることに意味なんてない。
 なのに、訪れる未来からは、誰も逃れることすらできない。

 だから、せめて一緒に居たかったけど。
 ……きっと、最初からわかっていた。

 この手には、何も残らないことを。

 けれど、一つだけ。
 一つだけ、過去から未来まで。果てはあの世にまで持っていけるものが一つある。
 皺一つ、染み一つつかないままで。

 思い出、だけ。
 あなたと居た全てのことを、そのまま未来まで持っていこう。
 痛くても、辛くても、苦しくても。
 意味すら、感じられなくても。
 例えどんなに日々を重ねて、何もかもが擦り切れて無くなったとしても。

 それでも。

 ――わたしはずっと、その色を、忘れられはしないから。



*



 ……とても、静かな夜だった。
 それがまるで人類の快勝を祝う夜なのだとしても、誰も信じられなかったほど。
 音という音が全て闇に飲み干され、静寂しか残らなくなってしまっていた。

 人の営みは続いている。あわやという所で踏み止まり、恐らくだが、近い内に新しい思惑だって動き始める。
 嵐の前の静けさだ。
 一つ乗り越えた所で次に襲い来るのは次の嵐で、落ち着かないまま、落ち着けないまま進み続けるしかない。
 魔女(ウィッチ)も、ただの人も、どれだけ時間が進んでも、それは何も変わらないままだった。
 夜を視る――生きるということは、そんな、言葉にしてみれば単純なもので。
 それでいて、ひどく間違いやすくて難しいものだった。

 だからこそ、人は夜に願いを灯す。
 奇跡を願ってしまう。決して訪れないそれを夢見て、追いかけてしまう。
 中途半端なまま終わっていく事を知りながら、それでも向かっていく。
 馬鹿げた話だが、そうやって続いてきた。
 続けてきた。
 だから、目に見える全ては過去からの逆算。
 闇の中に芽生えた光だって、希望だって、奇跡だって。
 ずっと、過去は現在を追いかけて、
 現在は未来に繋がっていった。



 ――星が、降っていた。
 “グリゴーリ”の砕けた身体が夜空に星のように降り注いでいる。
 暗雲は溶け、透き通った黒い透明だけが広がっている。
 暮れゆく空も、夜に追い越されてしまったみたいだった。
 その中で、瞬く星屑の光は人類の勝利を祝福している。
 それはとても綺麗で、見るもの全てが言葉を失うほどだった。

 そして、その眼下。
 かつて雪原だったその場所は、今や雪解けして草原に変わっている。

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