ハーメルン
ブレイブウィッチーズ 星降る夜に
第2話 羽ばたけ、血塗れの翼 前編

 雁淵ひかりの朝は走り込みから始まる。
 何メートル、何キロ走るというのは特に決めていないので、前は朝食が出来るまでずっと走っていた。
 今はそれに含めて魔法力をコントロールする練習もしているので、走り込みの方はほどほどに抑えている。だいたい五キロから一〇キロくらいが目安だ。

「――よし」

 基地内にある巨大な塔に、右手をつける。
 かつてここでエディータから試練を課され、クリア出来ないと扶桑に帰れと言われたことがあった。ストライカーユニットを使わずに魔法力だけを用いて塔を登り、てっぺんに置かれた帽子を取るというものだ。
 きつかったが、その試練がきっかけで自身の戦い方に気付けたし、彼女や直枝ともっと仲良くなれた気がする。ひかりが自主的に行っている訓練の中でも、特に思い入れを込めてやっているものの一つだった。

「――魔法力、展開」

 右手に魔法力を集中させる。
 雁淵ひかりには、魔法力が絶対的に欠如している。生まれるときに姉の孝美に根こそぎにされたかのように、その魔法力は貧弱だった。ストライカーユニットも動かすだけで精一杯だし、シールドだって、魔法力減衰期に入ったウィッチのように脆い。
 けれど、姉の真似をして魔法力を用いて川を渡る訓練を長年続けてきたせいだろうか、魔法力コントロールの技術においては頭ひとつ飛び抜けたものがあった。
 その技術を活かし、局所的に魔法力を集中させ、それを足掛かりにして塔を登っていく。
 試練で始めたときはこんなこと出来るのかと本気で思ったものだが、ここ半年以上ずっと続けていたせいか、苦でもなくなった。
 むしろ、物足りなくなって新たなことをやりはじめているくらいだ。
 その一つが……

「おおおおお……っ!」

 片足に魔法力を集中させ、一歩ごとに魔法力を交互に入れ換える。その上で塔を回るようにしてひかりは走っていく。
 端から見れば非常におかしな光景だったが、見るものが見れば感嘆にため息をつくくらいの技術ではあった。

「うわ、すごい。ひかり、なにやってるの?」
「……ニパさん。おはようございます。今は練習で塔を登ってます」
「おはよ。それ、登ってるっていうか、回ってるよね」
「そうとも言いますね」
「そうとしか言わないよ!」

 そしてそんなことをしていると、地上から声がかかる。
 ニッカ・エドワーディン・カタヤイネン――通称ニパだった。
 彼女もひかりと同じく早朝からの走り込みをよくしている。かつては直枝とニパ、ひかりで毎日のように走ったものだった。誰が一番速く走れるかで競ったりして、大概はひかりが勝って、直枝が悔しそうにしていた。
 それは、かつてあった光景だ。当時はそういうものだ、と疑うこともしなかったけれど……喪ってはじめて、その過去の美しさに目眩を起こしそうになる。
 その度に思い知らされるのだ。
 もう、戻って来ることはないと。

「どうしたんですかこんな早くに?」

 登り切った塔の上からひかりが問いかける。
 ニパは、それをお前が言うのか、といったように苦笑いした。

「いや、ワタシも走り込みしようと出てきたんだけどさ、そしたらひかりが変なコトやっててつい声かけちゃった。ごめんね、邪魔しちゃった?」
「……いえ、もう終わりにしようと思ってましたから」

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