ハーメルン
ブレイブウィッチーズ 星降る夜に
第4話 果てぬ痛み 前編

 暗闇の中を歩いている。
 ここでは何もかもがうまくいかない。
 走ろうとしても水の中に居るみたいで駄目だし、
 かといって止まろうとしても何処かぎこちない。
 故に、歩いている……というより、流されていると言えばいいだろうか。
 ああ、そうだ。
 流されている。
 予め定められた、大きな流れのようなものに沿って足を動かしているに過ぎないのだ。
 そんなあやふやな状態でいるのだから、起きたあとに何かを覚えていることは難しいだろう。
 ここには何もない。
 姉のようになれれば、こんな不出来な自分だって誰かに見てもらえるような気がした。
 愛してもらえるような気がした。
 彼女のようになれれば、こんなちっぽけな自分にだって胸を張れるような気がした。
 認めてもらえるような気がしていた。
 けれどそれすら否定されるみたいに二人は居なくなった。
 どうすればいいのかわからない。
 何を目指していけばいいのかすら。
 彼女達の後ろ姿を目指して走っていることだけが、唯一の望みみたいなものだったから。
 けれどこんな暗闇の中では止まっていることさえ怖くてしょうがなくて、
 ……うまく、いかなくて。
 例えばの話だ。
 夢を見ている間に何か良いことがあったとして。
 それが目覚めてしまえばなくなるのなら、
 瞼を開けている事にどれほどの意味があるのだろう?
 絶対真空の夜に取り残されて、過去に落としてきた何もかもを必死になって探すことで消費される今に、
 それだけを繰り返してきた未来に。
 一体、どんな意味を見出だせるのだろう?
 ……わからない。
 それさえ、わからない。
 悲しくて、悔しくて、情けなくて涙が出そうになる。
 けれど夢の中ではそれさえうまくいかない。
 何もかもを落としてきてしまった。
 それらを拾い上げられるとも思っていない。
 新しく得られる、なんてそんな都合のいい事もないだろう。
 これからもきっと落としていく。
 “当たり前”だと思っていた何もかもが崩れ落ちていくことでしか、
 過去を置いてけぼりにすることでしか、息を続けていくことすらできないから。

 瞼は閉じている。
 瞳に映るものは何もない。
 だったなら、目を覚ましていない限り、この暗闇だけが、
 ――真実だと、そう言えるだろう。



 *



「……さよならだね、チドリ」

 早朝、格納庫(ハンガー)の中。
 姉、孝美との部隊残留をかけた対決に負けたひかりは、最後に姉から借り受けていたストライカーユニット――チドリに最後の挨拶をしていた。
 最初はうまく使えなくて、真っ直ぐ飛ぶことすら危うかった。
 けれど今の今まで、孝美との対決すら出来るようになれたのはこの機体の力もあったことだろう。愛着もひとしおだった。
 心寂しい気持ちもあるが……それはしょうがない。
 もともと借り受けていたものだ。元の場所に収まるだけだろう。

「昨日は接戦だったぜ」
「……管野さん」

 そんなひかりの元に現れたのは直枝。
 朗らかな調子で、昨日のひかりの健闘を讃えていた。

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