ハーメルン
セングラ的須賀京太郎の人生
4 小学校三年 岩手にて



















 岩手に引っ越した京太郎は、いつものように教室を探した。

 自分だけで通えて、できれば月謝などの金がかからず、参加人数が多いのが望ましい。指導のためにプロやセミプロがいてくれると尚良いのだが、それをどこの教室にも求めるのは高望みというものだろう。

 まずは、自分で通える範囲……ということで、教室を探し始めた京太郎は、現在の環境に愕然とした。

 教室が、京太郎が歩いて通える範囲にはなかったのである。一番近くで電車で三駅。決して通えない距離ではなかったが、週に何度か通うことを考えると自分の小遣いで電車代を賄うのは不可能だったし、電車代を出してもらうのも気が引けた。条件が厳しいことはあったものの、これは今までの東京や神奈川ではなかったことである。

 どこの土地でも一定の環境が約束されている訳ではないのだと、アニメ以外で初めて実感した京太郎だった。

 ならば自分の学校で麻雀を打てる人間を探そう。そう思い立ってはみたものの、その成果は芳しくない。

 京太郎の通う小学校の男子は、この時皆スポーツに夢中だった。野球かサッカーかとにかく外で遊べるものが人気で、そうでない男子は皆ムシキングに夢中だった。放課後の時間を麻雀に費やしてくれる同級生は、京太郎が探した範囲では一人もいなかったのである。

 時期が悪かったというのもある。京太郎がこの地を去ってから二年後、遅まきながらこの小学校の男子にも麻雀ブームが来るのだが、それは既に京太郎には関係のない話だった。

 とにかく京太郎は麻雀がしたかった。

 もはや男子、同級生に拘ってはいられない。京太郎は学校全体を対象に、同好の士を探し直した。学年、性別に拘らなければ一卓くらいは立つはずと、希望を捨てずに探した。その結果、ついに二つ年上の女子のグループが麻雀のサークルを作ろうとしていると、先生に紹介してもらうことができた。

 女子か……と思わずにはいられなかった。横浜での生活で女性との接触は一生分持った気がしていた京太郎だ。この地ではできることなら男子と仲良くしたかったのだが、背に腹は代えられない。女子だけど大丈夫か、と京太郎の心配を察してくれた先生に、是非紹介してくださいとお願いし、今日がその日である。

「須賀くんはいますか?」

 教室まで京太郎を向かえに来たのは、その女子だった。話では二つ上の五年生……のはずだが、少女はとても小さかった。高校生にしては小さかった咏と比べても、大分小さい。京太郎と同じ三年生女子だとしてもやっぱり小さい。これで五年生なら間違いなく背の順では一番前だろう。腰に手をあてるあのポーズを、京太郎は生まれてこの方一度もやったことがなかった。

「須賀は俺です」

 同級生の視線が集まるのが恥ずかしかった京太郎は、急いでその女子のところに駆け寄った。小さい少女が京太郎を見上げる。その顔がむっとしたものになった。男子とは言え二つ年下の三年生に身長で負けたのが悔しいのだろう。口には出さなかったが、その顔は咏で見慣れていたからよく理解できた。

「こっち。ついてきて」

 小さな少女は京太郎を促して歩き始める。後ろを歩いていると、少女の白い項が見えた。日本人形のようなおかっぱの髪から、何だかこけしのように見えた。

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